レッドハットは4月25日、2023年度の事業戦略説明会を開催した。代表取締役社長の岡玄樹氏は、2022年度のビジネスについて、すべての四半期で2ケタ成長を遂げ、好調だったと振り返った。「Red Hat Enterprise Linux」「同 OpenShift」「同 Ansible」が成長を牽引したという。CEOがマット・ヒックス氏に代わったが、「オープンハイブリッド クラウドの実現で、お客様のビジネス変革を支援するというゴールは変わっていない」と、同氏は語った。

  • レッドハット 代表取締役社長 岡玄樹氏

2023年度の事業戦略を支える3つの柱

岡氏は、2023年度の戦略として、「コアビジネスモデルを拡大しながら、ビジネスモデルをクラウドサービスにシフト、そして、エッジビジネスの基盤を構築」を紹介した。「パブリッククラウドの疑念はなくなったが、マルチクラウドをどう使うべきか、困っている企業が多い。われわれとしては、プラットフォームにとらわれずにクラウドを使ってほしいと考えている」と同氏は述べた。

  • レッドハットの2023年度の事業戦略

具体的には、「コアビジネスの拡大」「クラウドサービスの確立」「エッジビジネスの基盤を構築」に取り組む。

コアビジネスについては、ディストリビューター、OEM、クラウドプロバイダーといった具合に、あらゆるチャネルから、あらゆるプラットフォームに対し、あらゆる提供方式で、同社の製品を提供することを目指す。加えて、本社開発部門とパートナー様の協業を加速し、業界トップ企業のミッションクリティカルなシステム領域への実績を拡大する。

岡氏は、コア製品の一つである「Red Hat Ansible」について、今年後半に機能強化が行われると説明した。最大の差別化は、生成AIの機能を追加し、自然言語による自動化手続きを実現することだ。生成エンジンはIBM WatsonIPCを用いており、「ITの管理者のスキルも補完できる」と岡氏は語っていた。

クラウドサービスについては、OpenShiftマネージドサービスを軸に、これを軸にクラウドサービスという新しいビジネス基盤を確立する年とする。サブスクリプションとクラウドサービスの両立を目指す。岡氏は、「2023年の戦略でサブスクが最も重要」と述べた。

オープンシフトのマネージドサービスをクラウドとして展開して、インフラの面倒を見ていたエンジニアがアプリケーションの面倒を見られるようにするという。「クラウドが立ち上がれば立ち上がるほど、オンプレミスも重要。クラウドソリューションとオンプレミスを使って、顧客を支援していきたい」と岡氏。

  • OpenShiftマネージドサービスはクラウドでもオンプレミスでも提供可能

エッジについては、「エッジに新しい革命を:クローズドなエッジの世界をオープンに」という戦略の下、ビジネスの基礎の構築に取り掛かる。岡氏は、「二けた成長を果たすには、中期的な事業を見据える必要がある」と述べ、その事業がエッジというわけだ。

2022年後半、産業機器向けにコンテナアプリケーションを展開する「Red Hat Device Edge」が発表されている。

ソフトウェアドリブンの実現に向け「OpenShift」を採用

同日、レッドハットの製品やサービスを活用して先進的なソリューションを提供していく Ready ビジネスパートナーにオムロンを認定したことが発表された。これに伴い、オムロンからインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー コントローラー PM グループ 経営基幹職 夏井敏樹氏も説明会に参加した。

  • オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー コントローラー PM グループ 経営基幹職 夏井敏樹氏

オムロンは、産業用システムおよびプロセスの管理と制御にRed Hat OpenShiftの技術を活用しており、レッドハットのパートナー向けプログラムを利用してエンジニアの育成、検証と開発を進めてきた。今回の認定により培った経験とノウハウを外部に展開していくため、パートナー向けのプログラムへの参加認定を受けたという。今後、両社は協力して Red Hat OpenShift Container Platform と Red Hat Device Edgeを活用し、市場への展開を図る。

夏井氏は、日本の工場は生産性の向上を求められているが、現場装置の生産性は向上しており、今後は、ソフトウェアドリブンによるデジタル化が工場の生産性向上のカギを握っていると説明した。

ソフトウェアドリブンを実現することで、要求の変化に迅速に対応すること、コストを抑えてスケーラビリティに対応すること、スクリプトによる一括作業で設定できることといったメリットが得られるという。

オムロンでは、ソフトウェアドリブンを導入するにあたりプラットフォームが必要となり、注目したのがコンテナを活用したプラットフォームだった。DockerとKubernetesによって構築された仮想化制御プラットフォームであれば、ブラウザベースのわかりやすい管理画面から複数のIPC(Industrial PC)の状態のモニタリング、負荷分散、平準化、データバックアップなどを行える。

  • 工場にコンテナプラットフォームを展開するイメージ

このコンテナ基盤として、オムロンはRed Hat OpenShiftを選んだ。選定にあたっては、「産業用途では、オープンソースではなく商用ベースであることも価値」「クラウドソリューションとの親和性」「フレキシビリティと多様性」といった要素が決め手となったようだ。

夏井氏は、2023年度の取り組みとして、オペレータ目線での仮想化制御プラットフォームの見せ方を考えることに取り組むと述べた。具体的には、「コンテナを管理するGUI ツールの開発」「スケーラビリティを定義」「現場の時刻同期データをプラットフォームにあげるアイデア作成」「セキュリティ確保のアイデア作成」を挙げた。

スケーラビリティの定義において、OpenShiftベースのエンタープライズの他に、工場レベルに集約したエッジレベルのスケーラビリティ、現場デバイスに閉じたローカルのスケーラビリティの3つのスケーラビリティを定義する予定だ。