アクセンチュアは4月25日、生活者の視点から見た社会やビジネスの変化とともに、企業が押さえるべきデザインやビジネスの最新トレンドをまとめたレポート「Accenture Life Trends 2023(アクセンチュア ライフ トレンド2023)」の日本語翻訳版の発行を発表した。
同レポートは、2008年から発行してきた「Fjord Trends(フィヨルドトレンド)」レポートの後継版となる。同日に開催されたオンライン記者説明会では、2023年に留意すべき5つのトレンドと企業に求められる対応などが解説された。
2023年の5つのトレンド
レポートで紹介されている5つのトレンドは、「I will survive」「I’m a believer」「As it was」「OK, Creativity」「Signed, sealed,delivered」だ。
「I will survive」は生活者の変化についての考察だ。新型コロナウイルスの感染拡大や紛争、生活費の高騰などによって不安定な状況が続いたことで、ここ数年で人々の不安は高まり、買い物の優先順位やブランドの捉え方に影響が及んでいるとアクセンチュアは見ている。
アクセンチュア Accenture Song デザインリサーチ アソシエイト・ディレクターのレベッカ・ブッシュ氏は、「人々は刻々と考えを変えていき、考え方が定まることはない。顧客や従業員が今のような状況にあることを理解しない企業は、今後苦境に立たされるだろう。『環境にやさしいことを重視しつつも、時に価格が安い方を選んでしまう』など、矛盾した行動をとることも人間の姿であり、そうした多様な行動をする生活者を多面的に捉え、寄り添うことが企業に求められる」と解説した。
「I'm a believer」では、顧客のロイヤリティを醸成する場としてオンラインコミュニティに注目する。NFT(非代替性トークン)をはじめとするWeb3技術の急速な普及により、ブランドの提供価値はDAO(分散型自律組織)的に機能する顧客コミュニティを起点に創造されるとアクセンチュアは予想する。オンラインコミュニティを活用して生活者からブランドへの関与を促すために、企業はロイヤリティの高い顧客に対して、どのようなオーナーシップや機会を与えるかについて考える必要があるという。
「As it was」では「ワークスタイルの再発明」をテーマとする。テレワークが浸透したことでオフィスワーカーの多くがハイブリッドワークを望む一方で、有意義な対人交流という観点からオフィスの重要性も再認識されてきている。そうした状況を踏まえて、ブッシュ氏は、「従業員の人生を豊かにするプラットフォームとして、オフィスはどう機能すべきかについて考え、従業員が通勤したくなる価値を企業は提供すべきだ」と指摘した。
「OK, Creativity」では生成AI(ジェネレーティブAI)について、特に企業のブランドやデザインにおける影響と活用のポイントに触れている。AIが画像、動画、テキストの作成を代替するため、制作物のデザインなどクリエイティブプロセスが効率化されることから、企業のデザイン部門におけるAI活用は加速するとアクセンチュアは予想する。
その一方で、デザインの根底にあるアイデア創出や、人間ならではの実験的な取り組みがデザイン部門では重要になる。また、AIが生み出す膨大なコンテンツの中から顧客に目を留めてもらうため、企業は一気通貫するビジョンをブランドで示す必要があるという。
「Signed, sealed, delivered」では、生活者が自らのデータを主体的にコントロールするツールとして「デジタルウォレット」に注目する。個人情報やプライバシーの保護規制が強化される中で、個人情報やCookieの管理を自ら行う場面が増えたことで生活者が煩雑な思いをしているからだ。
「ブロックチェーン技術など新たなテクノロジーの登場で、透明性と相互運用性を中核に据えたオープンウォレットの枠組みの基礎ができつつある。将来、政府によってトークン化された個人IDや、銀行を通じたお金、製品やロイヤリティなど、生活者のあらゆるデータをまとめてオンライン上で管理できるユニバーサル デジタルウォレット システムが登場するだろう。そして、生活者は個人データの利活用を簡単に行えるようになる」とブッシュ氏。
現状では「ウォレット=支払い」と認識されている。そのため、ウォレットにさまざまな役割があることを周知することが、ユニバーサル デジタルウォレット システムの普及における課題になるという。
企業に求められる「顧客起点からライフ起点への転換」
5つのトレンドを踏まえたうえで、説明会の後半では企業がビジネス戦略をどう変化させるべきかについて、アクセンチュアからの提言が示された。
2022年に同社が実施した調査によれば、旅行や買い物に求めることについて、「企業が考える生活者の優先事項」と「生活者が実際に優先する事項」が異なっていたそうだ。生活者と企業の間に隔たりがあると考えられることから、アクセンチュアは「顧客起点からライフ起点への転換」を推奨する。
アクセンチュア Accenture Song グロース・ストラテジー マネジング・ディレクターの小林正寿氏は、「顧客起点を追求しているものの、多くの企業が生活者のニーズ変化に追いつけていない。ペルソナやカスタマージャーニーを設定して画一的な製品を提供するのではなく、あらゆる接点から取得したデータで顧客の多面的な価値観やニーズ、購買行動をリアルタイムに理解し、状況に合わせて最も適した解決策を提供していくことが今後の企業に求められる」と語った。
ライフ起点のビジネスを実現するうえでは、顧客の生活全般の動向を捉えて変化を察知する必要がある。しかし、顧客にまつわるデータをすべて把握するのは現実的ではない。そのため、企業は自社の強みを発揮できるコア領域を再定義して、同領域と関係の深いデータを活用すべきだという。また、生活者の変化に追随できるよう企業活動全体の再創造も必要になる。
「人事、組織、カルチャー、成果指導、企業のパーパスなど再創造すべき対象は幅広い。人事・組織の面では、顧客洞察力を持った社員を中核にしながら社内外の人材を柔軟に活用するといった、プロジェクト型組織運営が求められてくるだろう」と小林氏は述べた。