九州大学(九大)と名古屋大学(名大)の両者は4月11日、ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)」の安全性の課題を解決した、ゲノム切断活性を自在に微調整できる新技術を開発し、過剰な活性の抑制により安全性と正確な編集の効率を数百倍オーダーで高める、次世代型のゲノム編集プラットフォームの開発に成功したことを共同で発表した。

  • 今回の研究成果の概念図

    今回の研究成果の概念図(出所:九大プレスリリースPDF)

同成果は、九大 生体防御医学研究所の川又理樹助教、同・木村亮太大学院生(研究当時)、同・鈴木淳史教授、名大大学院 医学系研究科の鈴木洋教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の医用生体工学を扱う学術誌「Nature Biomedical Engineering」に掲載された。

CRISPR-Cas9は、あらゆる細胞の標的ゲノムを自在に編集することができる革新的な技術として、基礎研究分野の飛躍に貢献し、すでに食品や医療分野では産業応用化が進められている。

しかし、ゲノム切断の効率を単純に重視した従来型の編集法では、過剰なゲノム切断によって、目的以外のゲノム部位に対するオフターゲット変異をはじめ、検出が困難な染色体レベルでの巨大変異や、意図したゲノム編集を導入したアレルとは異なるもう1つのアレルに誘導されるオンターゲットのindel変異、DNA切断後のp53シグナル依存的細胞死などの深刻な編集リスクも存在しており、現在、そうしたリスクを許容する形で利用されている。そのため、海外での遺伝子治療への応用では、患者が亡くなるといった事例がすでに発生している。

つまり、現在のCRISPRツールとその使用方法は、非常に活性が高いために気軽に使いやすい一方で、細胞内でのゲノム編集には最適化されていないという。そこで研究チームは今回、ゲノム切断活性を自在に微調整できる新技術を開発し、過剰な活性の抑制により安全性と正確な編集の効率を数百倍高めうる次世代型のゲノム編集プラットフォームの開発を進めたとする。

  • 問題点と解決までの流れ。現状のゲノム編集技術における問題点1~5(左)に対し、なぜこれらの問題が生じるのかの仮説が立てられ、解決手段の考案とシーズ開発、検証を通して、すべての問題点を解決できる新規ゲノム編集法が開発された(右)

    問題点と解決までの流れ。現状のゲノム編集技術における問題点1~5(左)に対し、なぜこれらの問題が生じるのかの仮説が立てられ、解決手段の考案とシーズ開発、検証を通して、すべての問題点を解決できる新規ゲノム編集法が開発された(右)(出所:九大プレスリリースPDF)

最適なゲノム編集法を開発するためには、上述した問題がなぜ発生するのかという原因を究明することが必要だ。研究チームは以前、DNAとの親和性の弱いgRNA(ガイドRNA)を誤って設計した際に、精密編集細胞を効率よく取得できた経験をもとに、現在普及している編集法プロトコルでは、実はCas9のDNA切断活性が過剰であり、これが上述したさまざまな問題のトリガーになっているとの仮説を立てたという。