ガートナージャパンは4月4日~6日、「ガートナー データ&アナリティクスサミット」を開催した。「リーダーシップ、スキル、組織文化」「データ管理」「アナリティクス」「戦略と価値」「データ・サイエンス、機械学習、人工知能」「信頼、ガバナンス、プライバシー」という6つのテーマが用意された同サミットには、女優・経営者・研究者のいとうまい子氏や一橋大学 名誉教授の石倉洋子氏といったゲストスピーカー、海外アナリストなどが多数登壇。データ分析に携わるリーダーが知っておくべきトレンドなどが解説された。
その中から本稿では、ベイシアグループソリューションズ グループソリューション戦略室 室長の竹永靖氏による基調講演「ベイシアカインズのデータ活用~担当者のマインドも常時アップデートが必要~」の内容をレポートする。
2つの宣言で、小売業界に新風を巻き起こす
竹永氏は、日本航空やソニーミュージックグループなどを経て、現在はベイシアグループソリューションズ グループソリューション戦略室 室長を務める。約25年にわたり、小売業に従事していると言い、同社ではカインズのeコマースサイトやスマホアプリの構築、ワークマンのeコマースサイトやeコマース用刺しゅうシミュレーションシステムの構築、ベイシアの会員ポイント制度、お取り置きECやネットスーパーの構築などを主にプロジェクトマネジャーとして手掛けてきた。
ベイシアグループは2020年に1兆円企業に成長したが、カインズを例に取ると、これまでの過程でいくつかの節目があった。1つは2007年の「SPA宣言」である。これは自分たちでつくり、自分たちで売る「製造小売業」になるという宣言だ。そしてもう1つは2019年の「IT小売業宣言」である。「(自分たちで売る、というのと同様に)これも自分たちでITをやっていこうという宣言」だと同氏は述べた。
では、具体的にどのような取り組みを実施していったのだろうか。講演では、グループ各社が行ったIT化に関する印象的な取り組みが紹介された。
まずはデジタルで、従業員体験の向上を優先したカインズ
カインズではまず従業員用端末を導入した。従来、従業員は店頭で無線などのさまざまなツールを携帯していたが、それを従業員用端末として1つにまとめたのだ。これには「従業員がデジタルで便利になったと感じるものをまず導入する」という考えがあったという。
他社事例から学び、後発ならではのメリットを活かすベイシア
ベイシアの例では、ポイント制度とアプリの導入が挙げられた。ベイシアがこれらを導入したのは2020年のこと。竹永氏は「後発ならではの政策を採った」と言う。ここで重視したのが「同質化」と「差別化」である。まずは他社がすでに取り入れている機能のうち、成功しているものは同様に取り入れる同質化を行う。その上で差別化するために、他社の失敗事例を参考に、ベイシアならではの機能を検討したそうだ。結果としてベイシアのアプリはMAUがダウンロード数全体の90%を超えており、一般的なスーパーと比べて、レジを利用するかなり多くの人数がアプリを使用してくれている と竹永氏は明かす。また、ベイシアではECとアプリのシングルサインオンを実施している。この取り組みにおいて重視したのは、楽天IDとベイシアIDを紐付けることだったという。
「紐付けを行うことで、リアルなスーパーでの購入者の動向と、ネットスーパーの購入者の動向を比較してみたいという思いがありました。この取り組みを行ったことで、リアルなスーパーの存在を認知していない人は、その企業が運営するネットスーパーでは購入しないのではないかと考えていましたが、実は、そういう顧客ばかりではないことも分かり、ネットスーパー利用顧客に、リアル店舗の良さを改めて伝えることもできました」(竹永氏)
ワークマンが、ECサイトで購入しても店舗で受け取る仕組みにした理由
ワークマンの例としては、公式アンバサダーの声を活用したプロモーションや商品開発について説明がなされた。加えて竹永氏がワークマンの特長として挙げたのが、ECサイトの配送についてだ。ワークマンでは商品をECサイトで注文することが可能だが、基本は、配送するよりも店舗受け取りをあえて薦めており、ゆくゆくは全て店舗受け取りにしたい考えだという。これは、ワークマンがフランチャイズ経営のオーナー運営の店舗であるため、EC経由の注文であっても、各店舗の売上になるかたちにしたそうだ。
グループ各社の取り組みから学ぶデータ活用の「3つの法則」
講演の後半では、同社が収集する実際のデータを見せながら、グループ各社のデータ活用の事例が紹介された。
カインズでは2016年のデータを基に、自社のレシートデータを使用した「顧客クラスター分析」を行った。そこから13種類のクラスターを抽出。1人当たりの購入金額や、一定期間にレジを利用する回数などを掛け合わせ、どのような属性の人がどんな行動をしているのかを「自分たちで分析した」(竹永氏)という。
竹永氏は「組織の成長がないと、戦略は立てられない」という考えから、「社内に対し、共通認識を持ってもらうことが大切」だと強調。社員にマーケティングに慣れてもらう、顧客を知ってもらうことから始めたというエピソードを語った。現在は、この経験を活かし、カインズカード会員の動向をほぼ社内で分析しているそうだ。
ベイシアの活用については、購買明細のうち、どのくらいが会員なのかといった具体的な数値目標を設定していることを示しながら、「数値目標を明確化することが重要だ」と説明した。その上で、数値を正確に把握し、推移を検証しているという。
「(データ活用においては)外部任せにせず、継続的に社内でやりきることが大切です」(竹永氏)
この言葉を体現しているのが、ワークマンにおける徹底した自前主義とエクセル活用である。これはワークマン 専務取締役 土屋哲雄氏の著書『ワークマン式「しない経営」』(発行:ダイヤモンド社)でも話題になった。
3社の事例をそれぞれに紹介した竹永氏は講演の最後に、データ活用の3つの法則を紹介した。1つ目は「基本は、社内で自社社員自身が行うこと」であり、これは社内ノウハウの蓄積につながるという利点もある。2つ目は「ツールは、なんでもよい。」だ。「身の丈に合ったものにし、その目的を明確にすることがポイントになる」と同氏はその意図を説明した。3つ目は「積極的な社内広報と教育」である。ここで気を付けるべき点は「『社内の誰でも理解できる言葉』で伝えること」だと言う。このように、「データの民主化」を行い、社員のマインドを常にアップデートしていくことこそ、データ活用成功の秘訣にだとし、竹永氏は講演を締めくくった。