豊橋技術科学大学(豊橋技科大)は3月24日、2つの炎を互いに近づけたり遠ざけたりすることで、火炎のゆらぎを自在に制御できることを見出したと発表した。

同成果は、豊橋技科大 機械工学系のJu Xiaoyu博士(研究当時)、同・中村祐二教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Phy sical Review Applied」に掲載された。

一旦ゆらいでいる炎同士が干渉すると、安定的なゆらぎモードだけが選択的に発現し、炎の距離に応じて、同じ位相でゆらぐ「同位相モード」、逆の位相でゆらぐ「逆位相モード」が選択的に発現する。またそれらのモードでは、ゆらぎの周波数が異なるといったことも起きるという。

このように、炎のゆらぎはさまざまなゆらぐ状態が実現できるが、「ゆらいでいる2つの炎を干渉させてゆらぎを止まる」ことが示された例はないとする。ただしこの状態は、過去に3つの炎をある配列にすることで実現できることが示され、炎が動かないことから「デス・モード」と命名されている。その一方で、それがなぜ2つの炎ではできないのかが明確にはわかっていなかったという。

炎同士の干渉においては、徐々に近づける、または遠ざけると、途中でゆらぎが一時的に止まるタイミングがある。しかし、その止まった位置に留めておいても、しばらくするとゆらぎ始めてしまうことから、ゆらぐことこそが安定状態なのだとする。ただし、その安定状態に落ち着くまでの「遅れ時間」があるということは、その時間スケール内でゆらぎを静止できる状況を作れば、ずっと静止させられる可能性があるという。そこで研究チームは今回、2つの炎同士の距離をある周期で近づけたり遠ざけたりすることで、デス・モードを発現させることを試みたという。

そして実験において、実際に炎の距離を周期的に近づけたり遠ざけたりしたところ、先述の予測が正しかったことが証明された。なお中村教授によると、この現象は燃焼工学ではなく非線形物理学として、応用物理の研究者によって説明が試みられてきたが、その説明では流体力学的な考察が含まれていなかったという。そして今回の研究成果から、流体力学的な特性で説明できることが示されたとした。

  • (左)炎を動かした際の様子。(右)状態マップ

    (左)炎を動かした際の様子。(右)状態マップ(出所:豊橋技科大プレスリリースPDF)

また研究チームは今回の研究成果について、応用は現時点では特に考えていないという。ただし、不思議な現象解明を通じて掘り下げるという"大学らしい"基礎研究として、実験のみならず数値解析や理論解析を通じてさらに掘り下げる予定だとしたうえで、国際共同研究としての展開も予定しているという。中村教授は、「日本発の研究シーズを国際展開することで、日本ではこんな(役立たない)基礎研究が存分にできる」ということを世界に向けて発信していきたいと考えているとのことだ。また、筆頭著者のJu研究員は今後、理論構築に向けた研究を進めていくとしている。

豊橋技科大公式動画『炎同士を動かすことで炎のゆらぎが止まる「デス・モード」の発現』(出所:YouTube Toyohashi University of Technology(豊橋技術科学大学)公式チャンネル)