空調大手のダイキン工業が今、さらなる進化のため、”もの+コトつくり”への変革を進めている。背景にあるのは、デジタル化による業界構造の変革だ。
2月21日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 DX Frontline for Leaders 変革の道標」で、同社 執行役員 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長(産官学連携推進担当)を務める河原克己氏が、協創をテーマに話した。
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異業種参入に備え、”もの+コトつくり”のビジネスへ
ダイキン工業は売上高3.1兆円を誇る大手メーカーだ。2022年度の売上高予想は3.9兆円、これは20年前の約7倍だという。売上のうち海外の比率は80%、9万4000人いる従業員のうち83%が外国人というグローバル性も特徴だ。
同社は、2025年に向けた5カ年の中期経営戦略「FUSION25」を進めている。そこでは成長戦略を「カーボンニュートラルへの挑戦」「顧客とつながるソリューション事業の推進」「空気価値の創造」の3つと定めている。
カーボンニュートラルへの挑戦については2050年のカーボンニュートラル達成を目指し、2019年を基準に2025年に30%以上、2030年に50%以上のCO2排出量の削減に向けて取り組む。例えば工場でのCO2排出の削減、製品使用時の消費電力の削減、燃焼式の暖房や給湯装置をヒートポンプ式に置き換える、冷媒ガスの回収再利用などを進めているという。
顧客とつながるソリューション事業の推進については、機械を販売すれば終わりではなく、顧客とアフターマーケットで繋がりながら、ソリューションを提供する。
空気価値の創造については、空気を通じた人々の生活への健康快適な価値を創造することだと河原氏は説明する。
DXの観点では、「空調のような設備メーカーも業界構造の変革にさらされている」と言い、GoogleによるNEST買収、Teslaのエアコン事業への参入意欲表明といった動向を紹介しながら、「モノづくりで競争するだけでなく、エネルギーシステム全体の中でどういったポジションを取れるかといった業界構造そのものが変化する大きな変換点に差し掛かっている」と述べた。
GAFA、BATなど海外のIT系企業は動きが速く、ビジネスイノベーションを得意とする。
「日本のものづくり企業がこれらに対抗するためには、ものづくりを精緻化、高度化するという強みを失わないようにしながら、”もの+コトつくり”のビジネスモデルを実現しなければなりません」(河原氏)。
イノベーションの鍵を握る異分野との「協創」と「融合」
ダイキン工業が目指す”もの+コトつくり”のビジネスへの変換に向けて、重要視しているのが外部との連携・協創だ。
そのために同社が設立したのが「テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)」である。380億円を投じて2015年に大阪府摂津市にオープン。技術者同士の交流はもちろん、さまざまな大学の教授らが駐在して外部と共同研究を推進できる仕組みを備えた施設だ。
同センターはまた、ダイキン工業のグローバルビジネスにおいて、世界のR&D機能、商品開発機能をコントロールする“グローバルマザー”としての機能も持つ。ここでコア技術であるインバータ、ヒートポンプ、冷媒制御などの開発を加速させているという。
河原氏によると、エアコンが搭載する蒸気圧縮式のヒートポンプ技術は130年前に発明されて以来、基本原理は変化していない。その中で、電気、機械、材料などの技術のすり合わせと組み合わせを工夫しながら競争しており、「S字カーブの1つ目の頂点での厳しい競争を続けている」と言う。
イノベーションを起こすためには、新しいS字カーブへの挑戦が欠かせない。そこでは、「R&Dのプロセスやシステム、マネジメント、進め方そのものを変えながら、新たなプロセスを構築していく必要がある」(河原氏)のだ。
ダイキン工業が目指すのは、「空調プラットフォーム事業の実現」である。具体的な要素としては、住宅や建物全体のエネルギー効率を改善、嗜好に合った健康快適な空間の提供、屋外のCO2濃度、花粉、ウイルス、PM2.5なども考慮したヘルスケア環境の提供などがある。
「異業種の方々、異分野の技術との連携を進めながら、価値創造を実現したいと考えています。エアコンディショニングから、ヒューマン・コンディショニングに成長させていく、これが我々の大きな夢なのです。空調機が関係する技術はコア技術として自信を持っていますが、データ活用、AIソリューションを促進するセンシング技術、さらにはライフサイエンスまで含め、多数の大学、ベンチャー企業などとの連携が重要になります」(河原氏)