日本郵政グループは、リアルとデジタルの融合により顧客の体験価値を高める「みらいの郵便局」の実現を目指し、DXに取り組んでいる。変革を推進するための組織として設立された子会社が、JPデジタルだ。

2月22日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 DX Frontline for Leaders 変革の道標」では、JP デジタル 代表取締役CEO 兼 日本郵政 執行役・グループCDO 兼 日本郵便 執行役員の飯田恭久氏が登壇。「日本郵政グループが取り組むDX ~『みらいの郵便局』の実現」と題し、同社がDXによって目指す姿や、具体的な施策、DX人材を育成する上で「変えなければいけない」と考えていることについて解説した。

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DX推進のために設立された子会社・JPデジタル

日本郵政グループは、郵便、貯金、保険の3つの中核事業を持ち、正規・非正規を合わせると約40万人の従業員を抱える国内最大規模の組織だ。そんな同グループは、中期経営計画として「JPビジョン2025」を掲げている。これは郵便局が持つリアルの郵便局ネットワークにデジタルを掛け合わせることで新たな価値提供を行うこと、そしてコアビジネスの充実強化と共に新規ビジネスを生み出していくことも目指すというものだ。

  • JPビジョン2025

「お客さまと地域、企業を支える共創プラットフォームになっていこうというビジョンです」(飯田氏)

それを推進するために設立されたのが、子会社であるJPデジタルだ。同社は各グループ会社のDXの施策の実行支援にあたるほか、横断的にDX人材の育成も担っている。日本郵政グループは前述の通り巨大な組織であるため、動きがやや遅い面もある。そのため、機敏に機動性を持ってスピーディなDXを進められるよう、あえて子会社を作ったという。

  • JPデジタルの立ち位置

「みらいの郵便局」の実現に必要なこととは

飯田氏は、同グループはDXによって「みらいの郵便局」の実現を目指しているが、そのためには、デジタルを使って郵便局が本当に成し遂げるべきことは何かを考えなければならないと語る。例えば、ポータルアプリをつくる、店舗にデジタルツールを置く、顧客のデータベースをつくるといったことはどれも実現すべきことだが、「これらはあくまで手段でしかない」と強調する。

「郵便局の最大の強みは人の温かみがあり、お客さまに合ったサービスを提供できること。お客さまの体験価値を徹底的に高める、必要なことはこれに尽きます」(飯田氏)

現在の郵便局では、デジタル化が進んでいないが故に不満を感じることがあるとした上で、同氏はマイナス体験をゼロにすることから始め、DXによって新しい期待をつくる、新しい提供価値をつくるというプラス体験に変えていくことに注力すべきだと述べた。

郵便局が変革を目指す3つの領域

では郵便局はどう変わっていくのか。これについて飯田氏は3つの領域があると言う。その1つは窓口手続きをもっと便利にすること。デジタル発券機やセルフレジなどの導入により、顧客が自分で完結できる手続きを拡充し、キャッシュレスやタブレット端末などのインフラを整備することを目指していくという。

2つ目は、生活サポートをもっと身近にするということ。保険や金融の専門的知識を持った社員にもっと気軽に相談できるようにするために、オンライン相談ブースもつくるなど、リモート相談拠点を全国に拡大し、相談メニューの拡充計画している。さらに、郵便局は全国各地にあるという強みを活かして、買い物支援や空き家見守りサービスといった生活サポートも強化したいという。ここで重要なのは、都市部やビジネス街、郊外など、地域ごとの特性、それぞれの顧客のニーズを丁寧に捉えることだと飯田氏は語った。

3つ目は社員の働き方をスマートにすること。「みらいの郵便局」では、特に顧客と接するフロントラインの社員の働き方、顧客への向き合い方を変える必要がある。ここでのDXの目的は、事務的な負荷や作業時間を減らすことによって顧客と向き合い、温かみのあるサービスを提供できる環境をつくることだ。一例としては、セルフ化やペーパーレス化が挙げられる。これにより手続きを簡易化できることに加え、過去の購買・行動データをデータベース化することで、より効率的に、ニーズに合ったサービスを提供可能になる。これらによって、接客や相談を高度化していくと飯田氏は説明する。