クリーブランド・クリニックと米IBMは3月20日(現地時間)、IBMの管理による量子コンピュータを、米国で初めて民間企業のオンサイトに導入したと発表した。クリーブランド・クリニックに設置された「IBM Quantum System One」は、医療研究専用に使用される世界初の量子コンピュータだという。これは、クリーブランド・クリニックが生物医学領域の発見を加速させることを目的としている。

IBMおよびクリーブランド・クリニックの代表、Advanced Research Projects Agency for Health(ARPA-H)副所長のスーザン・モナレス(Susan Monarez)博士、ションテル・ブラウン(Shontel Brown)下院議員(OH-11)、ジョン・ハステッド(Jon Husted)オハイオ州副知事、ジャスティン・ビブ(Justin Bibb)クリーブランド市長が参加した公式イベントで、IBM Quantum System Oneが披露された。

ハイパフォーマンスコンピューティング、AI、量子コンピュータの活用による生物医学研究の加速を目的として、2021年に発表されたクリーブランド・クリニックとIBMの10年間におよぶDiscovery Acceleratorパートナーシップにおける重要なマイルストーンとして位置付けられている。

クリーブランド・クリニック CEO兼理事長 Morton L. Mandel CEO Chairであるトム・ミハルジェヴィッチ(Tom Mihaljevic)医学博士は「量子コンピュータの力を医療に応用する新しい方法を探る上で、IBM Quantum System Oneの導入はIBMとの革新的パートナーシップにおける極めて重要なマイルストーンとなります。この技術は、医療を革新し、患者の方々に対する新しい治療法、治癒薬、解決策の進歩を促進する上で、非常に有望な技術です。量子コンピューターや他の先進的コンピューター技術によって、研究者は歴史的かつ科学的なボトルネックの解消に取り組めるようになり、がん、アルツハイマー病、糖尿病などの患者の方々に対する新しい治療法を発見できる可能性があります」と述べている。

一方、IBM 会長兼CEOのアービンド・クリシュナ(Arvind Krishna)氏は「IBM Quantum System Oneがクリーブランド・クリニックに設置されたことで、世界でも有数の研究者チームが、生物医学領域の研究における新しい科学的進歩を探求し、明らかにすることができるようになりました。量子コンピュータやAI、ほかの次世代技術の力と、クリーブランド・クリニックにおけるヘルスケアや生命科学における世界的に有名なリーダーシップが合わさることで、発見を加速化における新しい時代を切り拓いていきたいと考えています」とコメントしている。

今回の導入により、両組織の研究者は研究強化に向けて膨大な量のデータを生成・分析できるよう、これらの技術を用いたプロジェクトのポートフォリオで協力している。

また、すでに複数のプロジェクトを生み出し、特定のタンパク質を標的とした薬剤のスクリーニングと最適化を行うための量子コンピューティング手法を開発する研究や、心臓以外の手術後の心血管リスクに関する量子力学的予測モデルの改良、ゲノム解読の成果や大規模な薬物データベースを検索し、アルツハイマー病などの患者に有効な既存薬を発見するためのAIの応用などに取り組んでいる。

Discovery Acceleratorは、クリーブランドにあるイノベーション特区の一部である、クリーブランドクリニックの病原体研究&ヒューマンヘルス・グローバルセンターの技術基盤としての役割も担っている。

同センターは、オハイオ州、Jobs Ohioおよびクリーブランド・クリニックからの5億ドルの投資によって支えられており、新興の病原体やウイルス関連疾患の研究、準備、防御に焦点を当てたチームを結集させている。Discovery Acceleratorを通じて、研究者は高度な計算技術を活用し、治療法やワクチンに関する重要な研究を加速しているという。

これらの協力関係の重要な点として、将来の担い手を教育し、経済を成長させるための雇用を創出することを挙げている。高校生からプロフェッショナルレベルまでの参加者を対象に、データサイエンス、機械学習、量子コンピューティングに関するトレーニングや認定プログラムを提供し、将来の最先端計算機研究に必要な熟練した担い手を育成する革新的な教育カリキュラムが設計されている。

さらに、両組織はクリーブランドにコンピューティングの専門家を増やすことを目的に、学術界、産業界、政府、一般市民を対象とした研究シンポジウム、セミナー、ワークショップを開催している。