ここ数年の夏、私たちは一過性のものとは思えない暑さを経験している。2022年の夏は、気候変動が実感できるような高温が各地で計測された。高温が原因でデータセンターの温度管理がより困難になり、冷却のための電力消費が拡大し、それに伴いコストも増大している。データ量は依然として増え続け、電力消費は拡大する一方である。

データセンターの管理者なら誰でも、効率的な電力消費と安定した温度管理、ビジネスのニーズへの対応のいずれもが重要であることをよく理解しているはずである。冷却機器をサポートする高度なテクノロジーは数多く存在する。

しかし、それらを既存のデータセンターに導入したり、条件に合うように改造したりするのは容易なことではない。そこで、包括的な解決策の一環として、実践的で持続可能な戦略を紹介する。

冷えた空気を循環させる仕組みが必要

当然ながら、あらゆるデータセンターにおいて、優れた空調設備を持つことは極めて重要である。条件が許せば、寒い地域にデータセンターを建設して冷却の負担の大幅な削減を図ることは可能かもしれない。しかし、これは常に現実的な選択肢であるとは限らない。

空調設備にとって、安定した電力供給は欠かせない要件だ。事業継続および危機管理の計画においては、冷却技術だけでなく、コンピュートやストレージのリソースのためにも、予備電力が考慮されなければならない。事業継続計画、災害復旧計画の一部として、電力および予備電力の供給が停止した場合の対策は既に含まれているはずである。

気温が急上昇した場合に備えて、耐久性と信頼性の高いハードウェアを導入することも重要だ。例えば、フラッシュベースのストレージは、ハードディスクベースのソリューションと比較して、温度上昇への対応能力がはるかに高い。そのため、高温下でもデータはセキュアに保たれ、安定した性能が持続する。

消費電力削減のための3つの提案

IT 組織が、消費電力削減に向けて検討すべき対策は3つある。これらを組み合わせることで、データセンターの消費電力と冷却要件の削減が見込める。

(1)電力効率がよいソリューションの導入

当然のことだが、ハードウェアは全てエネルギーを消費し、熱を発生させる。したがって、データセンターのフットプリントが小さく、より多くのことができるハードウェアを選択すべきである。温度の維持が可能になり、冷却コストの削減という結果が得られる。データセンターに設置する機器の選定時に、電力効率を考慮する IT組織が増えている。

例えば、データ・ストレージやデータ処理の世界では、現在、ワットあたりの容量、性能などが重要な指標として位置づけられている。データ・ストレージは、データセンターのハードウェアの中でも大きな割合を占めており、より効率的なシステムにアップグレードすることで、データセンター全体の電力消費や冷却設備のフットプリントを大幅に削減できる。

(2)分散型アーキテクチャの採用

次は、直接接続型ストレージ(DAS)とハイパーコンバージド(HC)システムを見てみよう。多くのベンダーが、HCシステムによってコンピュートとストレージを統合することの効率性をうたっている。

これは正当な主張だが、その場合の効率性は、迅速なデプロイメントと、デプロイメントに必要な人的リソースの削減に起因するところが大きく、必ずしもエネルギー効率の高さを意味するものではない。DASやHCシステムでは、かなりの無駄な電力消費が発生しているのが実情だ。

一つ考慮すべき点は、コンピュートとストレージのニーズが同時に拡大することはほぼありえないということである。ストレージのニーズ拡大に対応しようとすると、コンピュートを過剰にプロビジョニングする結果となりがちだ。同じように、ストレージの過剰なプロビジョニングも起こりうる。

いずれのケースでも、多くの電力の無駄が発生する。コンピュートとストレージを分離すれば、インフラ・コンポーネントの総数が減り、電力や冷却の要件も削減できる。さらに、DASや HCシステムは、インフラのサイロ化を招く傾向がある。あるクラスタの未使用の容量を他のクラスタで利用するのは極めて困難であり、これがさらに過剰なプロビジョニングとリソースの浪費につながる。

(3)ジャストインタイムのプロビジョニング

3~5年先の予測に基づいてプロビジョニングを行う従来の方法は、実際のニーズよりもはるかに多くのインフラを稼働させることを意味し、もはや目的に適ったものではなくなっている。

よりよい代替手段となるのが、最新のオンデマンドの消費モデルとデプロイメントの自動化ツールの導入である。これにより、データセンターのインフラを、ニーズの変化に応じて柔軟に拡張できる。「ジャストインタイム」のプロビジョニングによるインフラの拡張が可能になり、数カ月、数年間必要とされない「万が一に備えて導入した」コンポーネントのための電力・冷却要件を解消する。

データセンターの温度管理は、信頼性の高い空調設備と危機管理計画に依存する部分が大きい。しかしどの施設でも、温度が上昇するごとに、機器にかかるストレスも少しずつ増大する。ラックやスタックにかかるストレスは冷却機器で軽減できるが、データセンターの管理者は、システムにできるだけ余計なストレスを与えたくないと考える。最近の熱波は、まさにその余計なストレスの要因となった。

まずは、機器の体積や発熱量を減らす対策を講じるべきではないだろうか。運用コストの削減、データセンターの簡素化と冷却、さらに、エネルギー消費の削減が同時に実現する可能性を、今こそ検討すべきだ。