コロナ禍で大きな打撃を受けた業種と言えば、旅行業が挙げられる。だが、一時は会社存続の危機すら感じられるほどだった逆境をむしろ好機と捉え、人財開発の取り組みを加速させたのがJTBだ。
コロナ禍の3年間で同社はどのような取り組みを行い、いかなる成果を上げたのか。2月2日に開催された「TECH+ セミナー 人事テック Day 2023 Feb.『人的資本経営』実現のためにとるべき打ち手とは」に、JTB グループ本社 人財開発チーム チームマネージャー/JTBユニバーシティ運営事務局 局長の田中篤氏が登壇。同社が進める人財開発のポイントと“こだわり”について語った。
コロナ禍で加速した人財開発改革の取り組み
JTBは創立110周年を迎える老舗企業だ。旅行会社としての印象が強いが、実は事業ドメインを「交流創造事業」と再定義し、人流だけでなく、物流や金流、情報流などあらゆる“交流”の創造を目指している。
もっとも、メインとなる事業はやはり旅行業だ。そして旅行業は、2020年に世界を襲った新型コロナウイルスの流行により壊滅的な打撃を被った。これまでにも米国同時多発テロやイラク戦争、リーマンショックなどの影響で業績が落ち込む時期はあったが、コロナ禍はそれらと比較にならないほどのダメージをJTBにもたらしたという。
「コロナの3年間は人財の流出なども多く、厳しい時期でした」(田中氏)
そこで同社が取り組んだのが、人財開発の強化である。2021年には経営戦略と連動した人財戦略を策定、「課題解決力」や「実行力」、「国際的な視野」など9つのキーワードを備えた目指すべき人財像である「自律創造型人財」を再定義し、人財開発への取り組みを進めていった。
田中氏が取り組みのポイントに挙げるのが、「能力開発支援」「キャリア開発支援」「組織風土改革支援」の3本の柱を有機的に繋げることである。
能力開発支援では、多様な“学びのスタイル”を提供
まず、能力開発支援については、「必要なときに必要な学び」を合言葉に、社員に対して多様な学びのスタイルを提供していった。例えば、学習管理システム(J-Campus)の導入やコロナ禍により強いられた休業期間中における学びの促進などである。研修のスタイルもeラーニングやウェビナーといったオンラインに移行し、現在は対面も含めた研修提供のハイブリッド化を実現している。
また、研修に関しては、これまでの会社主導で設計する「履修主義」から社員の自律をベースにした「修得主義」への転換したことも大きな変化だという。
「社会人の礎の構築、強いマインドセットの促進、新たなフィールドへの挑戦、キャリアビジョンを磨くといった研修は引き続き必修研修としていますが、これまでよりもその比率を下げています。一方で、社員が自らの意思で学ぶ自律した学びを強化しています」(田中氏)
さらに、研修による社員の行動変容を可視化することにも挑戦している。社内では「レッスン・ルーブリック」と名付け、開発する能力を4段階のレベルに分けて評価するのだ。
指導社員研修であれば、「課題発見力」や「傾聴力」「実行力」といった点が育成の対象となる能力であり、それぞれに4段階を設定する。課題発見力のレベル1は、「新入社員の変化に気付ける」レベルであり、レベル2は「新入社員の変化、成長した点、伸び悩んでいる点を挙げられる」、レベル3は「新入社員の育成計画書を補強できる」レベルとなり、最終段階のレベル4は「育成計画書を随時見直し、計画を実行できる」レベルとなる。当研修ではレベル2が想定している研修対象者で、研修を通じた目指すべき姿をレベル3あるいはレベル4とし、その後の行動変容でさらに能力を伸ばしていくことを狙っている。
このように開発対象の能力ごとに段階を設け、具体的に「どうあるべきか」を定義することで、社員の能力開発の状況がより鮮明になるというわけだ。
キャリア開発支援は「経営改革・カルチャー改革の一環」
次に、キャリア開発支援については、「キャリア改革を経営改革およびカルチャー改革の1つとして行ってきた点が特徴」だと田中氏は説明する。
大きな軸となるのは、「主体的・能動的なキャリア開発への転換」「活動領域の拡大と新たな能力開発の拡充」「部下のキャリア開発を支援するマネジメント」の3つだ。
これらを実現するために、JTBでは社員の成長をイメージする「ラーニングジャーニー」を設定し、MUST(やるべきこと)、CAN(できること)、WILL(やりたいこと)の3つで社員の自己理解を支援。社員自身のありたい姿と現状とのギャップを埋めるためのサポートを行っている。
その一例がキャリア研修だ。入社3年目、28歳、30代、40代、50代と年代ごと・節目ごとに提供される研修の他に、社内キャリアコンサルタントによるセルフキャリアドックも今年度より本格導入し、社員のキャリア形成を強力に支援しているという。