マネーフォワードは3月3日、都内で「コンポーネント型ERP戦略とSaaS×FinTechサービスの展開」と題したビジネス事業に関する戦略発表会を行った。説明にはマネーフォワード 執行役員 マネーフォワードビジネスカンパニーCSOの山田一也氏が立った。
コンポーネント型ERP戦略
同社では「マネーフォワード クラウド」に代表されるバックオフィスSaaS(Software as a Service)事業の売上高が全体の約60%を占めており、グループシナジーを創出するという観点からファイナンスサービスにも注力している。
最初に、山田氏が説明したのがコンポーネント型ERP(Enterprise Resource Plannig)の戦略についてだ。同社では2020年にコンポーネント型ERPとして「マネーフォワード クラウドERP」を提供しており、債権・債務管理や請求書発行、財務会計、経費精算、勤怠管理、給与計算をはじめバックオフィス業務に必要な各種サービスで構成されている。それぞれのサービスを1つずつ利用することも可能だが、最終的にはつなげて利用してもらうことで本来の生産性向上が図れるといった特徴を持つ。
コンポーネント型ERP戦略にマネーフォワードが注力する背景について、山田氏は「コロナ禍におけるリモートワークの増加や、インボイス制度など法改正による業務の見直し、技術革新に伴いできることが増えるなど、マクロ的な変化が顕著になっているほか、以前にも増してスピード感を持ちながら変化に対応していくことが企業経営で求められている」と話す。
同社のアンケート結果では、企業においてはインボイス制度による事業のマイナス影響の要因として「経理処理の煩雑化による間接業務の増加」(54.9%)がトップに挙げられている半面、改正電子帳簿保存法を含めた法改正がデジタル化推進の契機として考えている企業は半数以上にのぼる。
山田氏は「とはいえ、重厚長大な統合型ERPを利用していると急激な環境変化に合わせた部分的な改修や最新のテクノロジーを適用することが難しいのが実情。そのような中で当社は、環境変化に際して課題感が増大したものだけを部分的にSaaS化を進めていくことがお客さまに寄り添った業務改善だと考えている。そのため、コンポーネント型ERP戦略を採用している」と述べた。
また、iPaaS(integration Platform as a Service)ソリューションを提供するBoomiのERP戦略に関するグローバルの調査結果では、世界の94%の企業がComposable(コンポーネントと同じような概念) ERP戦略を採用し、日本でも同様の流れが見込まれているほか、回答者の72%がアプリケーションの刷新とクラウド移行に取り組んでいるという。
コンポーネント型クラウドERPの課題
マネーフォワード クラウドERPに関して、山田氏は「ERPとして、さまざまなサービスを備えてはいるが、いきなりすべてを導入するのではなく、まずは課題感が大きい業務に適用し、最終的にはバックオフィス全体をカバーできるものだ」と説く。
昨年にはサービスの拡充にも注力しており、請求受領システム「マネーフォワード クラウドインボイス」、連結会計システム「同 クラウド連結会計、個別原価管理システム「同 個別原価」の3つのコンポーネントを追加。
山田氏によると、コンポーネント型クラウドERPは、それぞれのサービスを使いつつAPIで連携することで統合型と同様の連携性を重視しながら、業務効率を高めることができるが、統合型ERPと比較した改善点としてはマスタの共通化が挙げられ、リアルタイム性がないというデメリットがあるという。
同氏は「それぞれのサービスごとにマスタが分散しているため、例えば従業員が入社したときに給与計算と勤怠それぞれに入力作業が発生し、マスタの二重メンテナンス性が課題となっており、それゆえにリアルタイム性が損なわれてしまう。こうした弱点に対して、当社では相当な力を入れているプロジェクトがマスタの共通化だ」と力を込める。
当面は全社でマスタの共通化に注力
マスタ共通化の第1弾として、マネーフォワード クラウド個別原価のプロジェクト管理マスタをリリースする。これは同サービスと「マネーフォワード クラウド会計Plusで相互にプロジェクトの登録・編集・削減ができ、個別原価でデータを更新すればクラウド会計Plusにも自動で反映されるため、会計業務の効率化が図れるというもの。
従来のマスタ管理はサービスごとにマスタを設定する必要があり、設定方法もそれぞれ異なっていたほか、新しいサービスが増えるたびにマスタが増えていた。今後は、全プロダクトで同じ従業員・組織・役職などを利用できる共通マスタの利用を可能とし、一度のメンテナンスで全プロダクトに反映できるようにしていく。
そして、同氏は「第2弾は、3月に適格請求者番号の登録情報を共通化・管理、第3弾としてクラウド人事管理のワークフロー機能を共通化し、その後はこのワークフローエンジンを各サービスに展開して、2023年中までにすべてのサービスのマスタ共通化を目指している。そのほか、部門、勘定科目もスコープに入っており、順次各プロダクトでマスタの共通化を計画している」とロードマップを示した。
SaaS×Fintech戦略における3つの打ち手
続いては、SaaS×Fintech戦略に関してだ。まず、前提として同社の調査ではインボイス制度を機にクラウドツールを導入する意向が高まっている状況をふまえ、山田氏は「マネーフォワード クラウドに蓄積された債権・債務データなどの企業間取引に関わるデータを活用し、FintechサービスをSaaSに組み込むことで、付加価値のある決済サービスの提供も可能になると考えている」と説明した。
そこで、同社ではSaaS×Fintech戦略における打ち手として「マネーフォワード Pay for Business」「オンラインファクタリング」「送金プラットフォーム」の3つを挙げている。
プリペイド型のBtoB決済であるマネーフォワード Pay for Businessは、サービス開始から1年以上経過し、発行枚数は15万枚に達している。昨年7月には後払い機能をリリースし、マネーフォワード クラウド会計とAPI連携することで独自のロジックで資料提出不要としており、従来のクレジットカードでは実現できなかった与信枠の付与が可能。
山田氏は「今後、マネーフォワード Pay for Businessをきっかけに、マネーフォワード クラウドシリーズを導入してもらえるようにできればと考えており、マーケティングを推進していく」と語った。
オンラインファクタリングについては、3月3日にマネーフォワード クラウド会計と中小企業向けオンラインファクタリングサービス「SHINKIN+」の連携を発表している。
連携により、マネーフォワード クラウド会計の入出金データと決算書類のデータをSHINKIN+に連携し、マネーフォワード クラウド会計を通じてSHINKIN+のオンラインファクタリングの審査申し込みが可能になる。
将来的には、オンラインファクタリングを事業者にとって身近なものするめに、申し込みや入出金の管理などを「マネーフォワード クラウド請求書」上で行うなど、SaaS内にオンラインファクタリング機能を内包し、エンベデッドファイナンスを実現していく方針だ。
送金プラットフォームは、マネーフォワード クラウド内に決済機能を持たせるというもの。2023年中に第1弾として「マネーフォワード クラウドBox」の未払い請求書データと「マネーフォワード クラウド給与」の未払い給与データを送金プラットフォームにAPIで連携し、送金方法は総合振込もしくは給与振り込みで取引先に送金できるようにする。
請求書カード払いの場合は、売り手がカード決済に対応していない場合でも買い手が取り込んだ請求書に決済用リンクを追加しカード決済を可能とし、買い手はカード決済で支払サイクルの延長をすることができるという。
順次、連携サービスの拡充、送金方法も請求書カード払いに加え、給与デジタル払い、ウォレット払いなどへの対応を予定している。