政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を社会全体でゼロにする、「カーボンニュートラル」を実現する方針を打ち出している。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から植物などによる吸収量を差し引いて、実質的につり合いが取れている状態だ。

カーボンニュートラルを実現しながらも持続的な発展を遂げるためには、産業競争力を高めて国際競争で勝たなければならない。そこで、自社のみならず経済社会全体での脱炭素化や、再生可能エネルギーを主とした社会システムへの変革を目指す取り組みが「GX(グリーントランスフォーメーション)」である。

このほど、GXに積極的に取り組む企業らと政府・産業界・金融界が連携して、経済社会システム全体の変革のために必要な議論と、新たな市場の創造を促す議論の場として「GXリーグ」を立ち上げた。2月14日にはGXリーグの取り組みについて発表する「GXリーグ シンポジウム2023」が開催され、経済産業省が掲げる「成長志向型カーボンプライシング」構想の概要が語られた。

シンポジウムの開催に先立ち、経済産業大臣でGX実行推進担当を務める西村康稔氏が登場し、以下のように開会のあいさつを述べた。

「本日のイベントには、脱炭素社会の実現に向けていち早く取り組む企業の皆様が集まっている。気候変動が世界的な課題となる中、日本は2050年のカーボンニュートラル実現にとどまらず、わが国の強みである技術力を生かしてGXで世界をリードする存在を目指している。2022年2月に示したGXリーグ構想にはすでに679社が賛同しており、今年度は準備期間として賛同企業らと本格的な活動開始に向けてルール作りをしてきた。政府は今後10年間で150兆円規模の投資を予定しており、イノベーションを創出していきたい」

「GXを実現するための大きな柱となるのが成長志向型カーボンプライシング構想であり、炭素排出量を抑えて作られた製品に対しては、事業の付加価値や収益を向上させるような仕組みを目指している。政府はこの構想による将来の財源に裏付けられたGX経済移行債を先行して資金を調達し、まずは企業への投資を進めていく」

  • 経済産業大臣 西村康稔氏

    経済産業大臣 西村康稔氏

続いて、経済産業省の産業技術環境局長である畠山陽二郎氏が登場すると、西村康稔氏が述べた成長志向型カーボンプライシングについて、その概要と今後の戦略について説明した。

  • 経済産業省 産業技術環境局長 畠山陽二郎氏

    経済産業省 産業技術環境局長 畠山陽二郎氏

グローバル規模で見ると、期限の違いはあるものの150カ国以上がカーボンニュートラルを掲げているという。特にアメリカやEU(欧州連合)では先行して官民連携での取り組みが進められており、さながら政策競争の様相を呈している。

特に、2022年から続くロシアによるウクライナへの侵攻以降、エネルギー価格の高騰やエネルギー源の不足が発生し、化石燃料に過度に依存するリスクが浮き彫りになった。そうした背景の中で、日本はエネルギー自給率が低く、化石燃料を中心とした産業構造から脱却し早急にGXを実現する必要があるとのことだ。

  • 各国のGX推進状況

    各国のGX推進状況

そこで、政府は2023年2月10日にGX実現に向けた基本方針を閣議決定し、GXを加速させることでエネルギーの安定供給と脱炭素分野での新たな市場創出を促し、日本経済の産業競争力を強化する方向性を示した。あわせて、GX実現に必要となる関連法案を国会に提出しているが、この中には成長志向型カーボンプライシング構想を具体化するための「GX推進法」の法案も含まれている。

成長志向型カーボンプライシング構想には、今後10年間で150兆円以上の官民GX投資を実現するため、GXへの投資を前倒しで取り組むインセンティブを付与する仕組みを盛り込んでいる。

大枠での取り組みは以下の4点となっている。まず1点目は「GX経済移行債を活用した先行投資支援」だ。今後10年間で約20兆円ほどの国債を発行するとしており、企業によるGXへの投資を政府が支援する。なお、発行したGX経済移行債は2050年までに償還する予定。

2点目は「カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ」である。炭素排出に値付けをすることで、炭素排出量を抑えた製品や事業の収益性を向上させて投資を促進する狙いがあるという。具体的には、2026年度から多排出産業の排出量取引制度を本格稼働させるほか、2033年度からは発電事業者に有償オークション(特定事業者負担金)を段階的に導入する。また、2028年度からは炭素に対する賦課金(化石燃料賦課金)を導入するとしている。

  • 有償オークションの概要

    有償オークションの概要

  • 炭素に対する賦課金の概要

    炭素に対する賦課金の概要

3点目は「新たな金融手法の活用」だ。成長志向型カーボンプライシング構想では今後10年間で150兆円以上の官民GX投資を掲げており、政府は今後10年間で20兆円規模の先行投資支援を行う予定だ。残りの130兆円ほどは民間企業の協力を得ながら投資していくようで、これを支える金融の創出を進める。4点目は「国際戦略・公正な移行・中小企業のGX」である。国際戦略では、アジアの中での展開を進めるという。

  • 新たな金融手法の実践例

    新たな金融手法の実践例

成長志向型カーボンプライシング構想は、今後中長期的にエネルギー負担の総額を減少させていく中で導入を進めるそうだ。今後はGXの進展による石油石炭の税収減少や、再エネ賦課金総額の減少が見込まれるため、その中で導入していく予定。

  • 成長志向型カーボンプライシング構想の概要

    成長志向型カーボンプライシング構想の概要