既報の通り、KDDI、KDDIスマートドローン、日本航空(JAL)、東日本旅客鉄道(JR東日本)、ウェザーニューズ、メディセオら6社は、ドローンを活用して医薬品卸から医療機関へ医薬品を配送する実証実験を東京都あきる野市で約1カ月間実施する。

実証実験は2月1日から開始する予定だが、これに先立ち、ドローン物流の社会受容性の向上を目的として、本宿小学校(東京都日の出町)の5年生および6年生の児童を対象に、ドローンのデモフライトや、ドローンに関する知識を深める教室、トイドローンの操縦体験などが開催された。

  • ドローンについての授業を聞く児童ら

    ドローンについての授業を聞く児童ら

今回の実証は、2022年12月5日に施行された改正航空法においてドローンの「レベル4飛行(有人地帯での補助者なし目視外飛行)」が可能になったことを受けて実施するものだ。段階的な制限の解除によってドローンが実社会の中で活躍する場面は増えており、2022年度に3099憶円(予測)のドローン市場が、2027年までに7933憶円(予測)まで拡大するという試算もあるという。今後ますますドローンの活用は進むと思われる。

同実証は東京都の「ドローン物流サービスの社会実装促進に係る実証プロジェクト」の一環として進められる。昨今の医療機関では、多数の医薬品を準備するために医薬品の管理コストが課題となる場面がある一方で、未使用の医薬品を期限切れのために廃棄せざるを得ない場面もあり、大きな課題となっている。これらの課題を解決するため、今回のプロジェクトは希少医薬品や検体のオンデマンド配送の実現を目指す。

  • 実証プロジェクトの概要

    実証プロジェクトの概要

2022年度は主に検体輸送に関する実証を進める予定だ。新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとして、今後も継続的な需要が見込まれる検体配送に関して、ドローンによるオンデマンド集荷により、検査結果通知期間の短縮を狙う。

従来は1日1回の定時集荷で検査対応していたため、集荷拠点で約3時間の滞留時間が発生し、翌日以降の検査結果通知となっていた。しかし、ドローンを活用することで集荷拠点での滞留時間を抑制し、至急の検査需要に対応できるオンデマンド集荷を実現するとしている。これにより、最短で当日の検査結果通知が見込めるとのことだ。

なお、2022年2月には、隅田川に架かる永代橋や中央大橋など複数の大橋をドローンで横断する医薬品配送の実証実験を実施している。

  • 2022年度のプロジェクトについて

    2022年度のプロジェクトについて

さらに、2023年度以降は医薬品卸倉庫や病院が在庫として保有する希少医薬品の、廃棄問題の解決に向けた検証を進める予定だ。必要な医薬品を必要な時に必要に応じた量だけをオンデマンド配送することで、希少医薬品の廃棄を防ぐとともに、在庫管理の効率化や人的リソースの有効活用にもつなげる見込みだ。

  • 2023年度のプロジェクトについて

    2023年度のプロジェクトについて

今回6社らが取り組む実証実験では、ドローンを用いたオンデマンド配送によるPCR検体などの検査通知期間の短縮を検証する。また、約1カ月間運用することで、ドローンの運航を遠隔で実施するための運用体制の構築に向けた課題の抽出にも取り組むとしている。

実証では阿伎留医療センターと検査機関であるエスアールエル セントラルラボラトリーを結ぶ、約120メートルの飛行ルートを設定している。模擬検体を平日の日中帯に輸送する予定だ。機体はACSL製の「PF2-LTE」を用いる。同機は全長1173ミリメートル、高さ526ミリメートルで、飛行時間は最大35分間だ。水平方向の飛行速度は最高で10メートル / 秒。

  • 2023年2月の実証実験概要

    2023年2月の実証実験概要

小学校を舞台に実施した今回のデモフライトには、次世代を担う子ども達にドローンを身近に感じる学びの場を提供することで、地域住民の認知度と理解度向上を促す狙いがある。安全管理の仕組みや飛行精度向上に関する情報発信に加えて、ドローンが社会実装された場合のユースケースなどが紹介された。

  • 本宿小学校で行われたデモフライトの詳細

    本宿小学校で行われたデモフライトの詳細

デモフライトでは、阿伎留医療センターの駐車場から本宿小学校までの約830メートルの距離をドローンが飛行した。レベル4での飛行を想定した運用ではあるが、今回は補助者の目視ありでの飛行だ。空に機体が見えると、ドローンの到着地点である校庭で待ち構えていた児童らから大きな歓声が上がった。

  • 荷物を運んで飛行するドローン

    荷物を運んで飛行するドローン

  • 荷物の中には模擬検体(着色した水)が入っている

    荷物の中には模擬検体(着色した水)が入っている

  • 模擬検体

    模擬検体

ドローンのレベル4飛行に関して航空法改正の話を聞いた児童からは、「ドローンに付けたカメラの映像を確認しながら遠隔地で操作することは、目視外飛行に該当するのか」など、鋭い質問も飛び出していた。

  • ドローンに搭載したカメラからの映像

    ドローンに搭載したカメラからの映像

授業ではその他にも、ドローン飛行中にトラブルが発生した場合に安全性を確保するための仕組みとして、落下時に自動で開くパラシュートや、通信が途切れた際に自動で出発地点に戻るRTH(Return To Home)機能などの、ドローンが備えるフェールセーフ機能なども紹介された。

  • 児童向けスライドで紹介されたフェールセーフ機能

    児童向けスライドで紹介されたフェールセーフ機能

本宿小学校の副校長先生に話を聞くと、「ドローンの実機は普段の授業では準備が難しいので、多くの企業の協力によって児童たちに良い授業を提供できたはず。みんなの顔つきも、いつもの授業とは違う様子。法律の話などは難しかったかもしれないが、ドローンがこれから自分たちの生活に密接に関わってくることに対し興味を持ってもらえたことが今日の大きな成果」と笑顔で振り返っていた。

  • 児童が参加したクイズラリーの設問

    児童が参加したクイズラリーの設問