実験都市「渋谷区」を作るイノベーションプラットフォームである渋谷未来デザインは11月8日から13日まで、「アイデアと触れ合う、渋谷の6日間」をテーマにしたアイデア会議「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022」を開催中だ。

各日とも魅力的な題材を取り扱うカンファレンスが催されているが、本稿では「Beyond Digital」として語られた、NTTが現在開発中のIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想と渋谷の未来についてのアイデアを発信する「NTT IOWN DAY」のキーノートセッションの様子をお届けしたい。

  • 「NTT IOWN DAY」のイベントの様子

    「NTT IOWN DAY」のイベントの様子

NTTが掲げるIOWN構想とは?

目覚ましい発達を遂げている情報処理技術ではあるが、その反面、データ利用の増加に伴って既存の情報インフラや消費電力の限界も懸念されている。インターネットにおけるトラフィック量は2006年と比較して2025年には約190倍の121テラビット毎秒にまで増加すると予測されており、扱うデータ量は2010年と比較して2025年に約90倍にまで増加する見込みだ。

IT機器が消費する国内の電力量も大きく増加しており、2006年の470億キロワット時から、2025年には約5倍の2400キロワット時、2050年には約12倍の5500キロワット時にまで増加すると見られている。

  • トラヒック量やデータ量が著しく増加している

    トラフィック量やデータ量が著しく増加している

さらに、私たちは気候変動や未知の感染症対策といった多くの課題を解決することが求められている。こうした中、消費電力を抑えながら高い性能を発揮する技術を利活用するために、これまでの延長線上には無い新たな技術基盤が必要だ。そこでNTTが発表したのがIOWN構想である。

2019年にNTTグループが発表したIOWN構想は、同グループが強みとする光技術を基盤としたネットワークによる、従来とは異なる新たな情報処理を実現する技術群だ。現在は2030年の実現に向けて開発を進めている。データの伝送はもちろん光で行うが、データの処理についても電子技術から光技術へ置き換える。

  • IOWN構想では光技術が重要な役割を持つ

    IOWN構想では光技術が重要な役割を持つ

IOWN構想が実現すると、デジタルツイン・コンピューティングの再現度がより拡張されるという。現在のデジタルツインは、車、交通網、生産工場など、ある一定の範囲内での再現にとどまっている。

一方で、IOWN構想によって低電力で高速に大容量の情報を処理できるようになれば、個々の要素の有機的な相互作用をデジタル空間に表現可能となるはずだ。仮想的な社会を高精度に再現できれば、適切かつ正確な未来予測にもつながるだろう。

  • デジタルツインコンピューティングの模式図

    デジタルツイン・コンピューティングの模式図

NTTの代表取締役副社長である川添雄彦氏は「IOWN構想が実現できれば、より高度なAIも作れるようになるだろう。計算処理できるデータ量が増加し、それを迅速に計算できれば高い精度で未来を予測できるはず。さらに、私は未来だけではなく過去も変えられるようになりたい」と展望を語った。

  • NTT 代表取締役副社長 副社長執行役員 川添雄彦氏

    NTT 代表取締役副社長 副社長執行役員 川添雄彦氏

ある時点での選択が未来に与える影響を、デジタル技術によってまるでパラレルワールドのように予測し、さらなる未来や現実の過去までフィードバックをもたらせるような世界が期待できるのだという。川添氏は笑みを交えながら解説していた。

  • AIを用いた未来予測の模式図

    AIを用いた未来予測の模式図

渋谷区が推進するスマートシティへの移行方針

スマートシティについてさまざまな見解があるが、現段階でスマートシティに関する正解は確立されていないといえる。渋谷区の副区長である澤田伸氏はステージに登場すると、「これから皆さんとスマートシティを作り上げていきたい」と方針を語った。

  • 渋谷区副区長 澤田伸氏

    渋谷区副区長 澤田伸氏

そうした前提の下ではあるが、同氏は渋谷区にとってのスマートシティについて、先端的な次世代技術を積極的に取り入れ、より洗練された都市サービスを創出し、パブリックベネフィットと生活者のWell-Beingを増幅する街であるとの見解を示した。

どこよりも早く先端技術を取り入れて、テストしながら社会実装し続けることが渋谷区が発揮できる価値なのだという。特に同区はスタートアップ企業の数が多く、そうした熱量なども上手に使いながら居住者や労働者、生活者の公益に還元する考えだ。澤田氏はこの仕組みを「Shibuya City as a Service」と称して紹介していた。

  • 渋谷区はShibuya City as a Serviceを目指すという

    渋谷区はShibuya City as a Serviceを目指すという

渋谷区が先端技術を活用しながら注力するのは、「Safety」「Environment」「Entertainment」「Diversity, Equity & Inclusion」「Global」の5領域だ。

渋谷区は2022年5月にIOWNグローバルフォーラムに参画した。同区は、IOWN構想の要素技術であるAPN(All-Photonics Network)による大容量化、低遅延化、低消費化がもたらす新たなデジタル体験価値と都市機能の充実を通じて、Well-Beingを実現し、さらにはWell-Beingを超えて生活者が継続的な成長を遂げられるWell-Growingを実現するという施策を掲げている。

  • 渋谷区はIOWN構想の活用を進める

    渋谷区はIOWN構想の活用を進める

渋谷区は11月11日に、「Sibuya Smart City Assosiation」を設立する予定だ。クロスセクターと協働で、「安心安全」「多様な空間活用」「渋谷カルチャー」など9つのワーキンググループを立ち上げ、研究・実証・実装のサイクルを加速する。この中で、NTTのIOWN構想の理解を深め、各要素技術の導入も積極的に検討するそうだ。

  • 「Sibuya Smart City Assosiation」の概要図

    「Sibuya Smart City Assosiation」の概要