みんなの銀行とゼロバンク・デザインファクトリーは11月8日、同行が利用するフルクラウド型の銀行システムを、国内外の金融機関および新たに銀行サービスの導入を目指す非金融事業者に向けて提供開始すると発表した。

同日には、同システムの特徴や提供方法、今後の取り組みに関する記者説明会が開かれた。

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「新しい銀行」を作りたい企業向けのフルクラウドシステム

みんなの銀行はふくおかフィナンシャルグループ傘下の金融機関で、口座開設、ATMでの入出金、振り込みなどの金融サービスの利用をスマートフォン上で完結できる国内初のデジタルバンクとして2021年5月に開業した。

ゼロバンク・デザインファクトリーは、同行の基幹システムを開発・運営を担う事業会社となる。

同行では、個人向けに金融サービスを提供するB2C事業のほか、BaaS(Banking as a Service)事業を展開しており、今回の取り組みはBaaS事業の一環となる。

説明会に登壇した、みんなの銀行 代表取締役 頭取の永吉健一氏は、「開業から1年半、当行にてシステムを安定的に稼働してきた。また、さまざまな機能が加わり、銀行向けのパッケージソリューションとして提供できる体制が整った。これから、新たに銀行を作りたい事業者向けにバンキングシステムを提供、販売していく」と述べた。

  • みんなの銀行 代表取締役 頭取 永吉健一氏

    みんなの銀行 代表取締役 頭取 永吉健一氏

今回、外部提供を開始するシステムはアクセンチュアと共同で開発したもので、勘定系のコアシステムをGCP(Google Cloud Platform)上に構築したフルクラウドシステムとなる。 必要な機能をオートスケールすることが可能で、DevSecOpsの仕組みによってサービスを稼働させたままアプリケーションをリリースしたり、障害時に自己修復したりできる。

また、Google CloudのCloud Spannerを導入し、複数エリアを横断して論理的に1つのデータベースを利用しているため、災害発生に備えて複数のエリア間でデータベースの同期を行う必要がない。

アプリケーションの構築ではマイクロサービス・APIアーキテクチャを採用している。さまざまな業界の基幹ビジネスロジックを疎結合な形で構築することが可能で、内部・外部のサービスとの連携もAPIを介して行える。

  • ゼロバンク・デザインファクトリーが提供する銀行システムのコンセプト

    ゼロバンク・デザインファクトリーが提供する銀行システムのコンセプト

同システムはSaaS(Software as a Service)で提供される。提供モデルはサブスクリプションではなく売り切りとなり、ゼロバンク・デザインファクトリーが販売する。なお、提供価格は、企業の導入形態に合わせて見積もりとなる。

FAPI準拠のセキュリティを標準実装し、カスタマイズも可能

同システムには、入出金や利息・手数料計算などの勘定処理、預金者の利用状況などをデータとして可視化する分析エンジンなどが組み込まれている。

これにより、モバイルの位置情報・操作情報ログ、基幹系トランザクションの変化などのデータをニア・リアルタイムでDWH(Data Ware House)と連携させて、顧客データをパーソナライズしたマーケティング活動に活用することができる。

  • 顧客関連データををニア・リアルタイムでDWHと連携することが可能

    顧客関連データををニア・リアルタイムでDWHと連携することが可能

セキュリティ面では、金融機関向けの国際的なAPIのセキュリティ規格であるFAPI(Financial-grade API)の認証を取得している。

同システムのセキュリティではコンテナベースアーキテクチャを採用しており、CSPM(Cloud Security Posture Management)やCWPP(Cloud Workload Protection Platform)といったクラウドセキュリティツールが標準で組み込まれているほか、多要素認証や改ざん検知のようなユーザー向けのセキュリティ機能も実装されている。

同行が利用しているセキュリティの仕組みをテンプレートで利用するほか、システムを導入する銀行や企業のセキュリティ体制に合わせてカスタマイズしたり、一部のセキュリティ機能のプログラムのみ導入することも可能だ。

ゼロバンク・デザインファクトリー 取締役 CIOの宮本昌明氏は、「従来、ベンダーが提供してきたフルバンキングシステムと異なり、当システムはミニマムな機能で銀行をはじめたい企業や、システムの内製化に取り組みたい銀行の利用を想定している。そのため、導入先で必要なサービスや機能に合わせて、アプリケーションのプログラムやインフラのコードのみを提供する」と説明した。

  • ゼロバンク・デザインファクトリー 取締役 CIO 宮本昌明氏

    ゼロバンク・デザインファクトリー 取締役 CIO 宮本昌明氏

システムの外部提供は国内のみでなく、海外でも展開する予定だ。今後、競合企業の動向や現地でのニーズのヒアリングを進めていき、販売体制などを検討していくという。

デジタルバンクの開業は欧米が先行して進んだが、みんなの銀行ではアジア圏の動向に注目している。

「特に東南アジアではデジタルバンク勃興の兆しがみられる。フィリピンでは、中央銀行が2020年にデジタル銀行設立に関する枠組みを制定し、2021年8月までに6行に銀行免許を交付した。タイでも、2021年にバーチャルバンクに関する報告書が公表され、2022年末まで新たな銀行業界のガイドラインを企画中と発表した」と永吉氏は語った。

みんなの銀行は同日、マネーフォワードへの参照系APIの提供を発表した。これにより、今後はマネーフォワードの家計簿アプリなどでみんなの銀行の取引情報が確認可能となる。

今後、BaaS事業においては、銀行システムや参照系APIの外部提供に加えて、更新系APIの外部提供を進め、金融機能を実装したホワイトレーベルアプリの開発・提供なども検討するという