創業100年を超える老舗総合化学メーカー・住友化学。エッセンシャルケミカルズ、エネルギー機能・材料、情報電子化学、健康・農業関連事業、医薬品という5つの事業を展開し、海外での売上が7割を超えるグローバル企業だが、昨今のSDGs、カーボンニュートラルなどへの流れをはじめ、素材・化学産業を取り巻く環境変化は激しく、ビジネスの不確実性はかつてないほど高まっている。しかし同社は、この状況を新たなビジネス創出のチャンスと捉え、DX戦略を推し進めているという。

10月6日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+フォーラム DX Day 2022 Oct. 攻めのDXでビジネスをどう変える」にて、住友化学 デジタル革新部 部長の金子正吾氏が、同社のDX戦略とそれを推進するための仕掛け、具体的な取り組み事例について紹介した。

製品群ごとに取り組むべきDXの方向性は異なる

近年の素材・化学業界は、顧客ニーズがますます高度化・多様化しており、研究開発に多くの時間を掛けることが難しくなってきていることから、変化に対応できなければ競争優位を失ってしまう状況にあると言える。こうした中、住友化学は、手掛ける事業によって取り組むべき活動は異なると考え、事業特性ごとにDXの方向性を検討した。

「スペシャリティ・ケミカル」とも呼ばれる高機能素材に関しては、独自の素材開発と用途・顧客開拓を目的に、顧客ニーズと自社シーズのマッチングやすり合わせの加速、Time to Marketの短縮化に向けて、デジタルマーケティング、顧客との共創の場の創出、材料開発へのAI活用、スピーディーな量産体制の立ち上げといった方向性を定めた。また、ニーズの多様化・高度化への対応、サプライチェーンの高速化という課題に対しても、デジタルの活用が求められるとした。

一方、汎用品である「コモディティ製品」においては、グローバル競争を勝ち抜けるレベルのコストダウンの実現がDX推進の大きな目的となる。これに向け、サプライチェーン全般にわたる徹底した最適化・合理化、工場操業の省力・省人化、設備の信頼性向上などを図るべく、オペレーションの自動化や生産・販売・在庫の最適化、IoT/AI活用による運転・保全の最適化に取り組むことを方向性として定めた。

トップダウン、ボトムアップの双方からDXを推進

住友化学のDX戦略ビジョンは2019年に策定された。DX戦略ビジョンは3つのフェーズに分けられており、2019年からは「DX戦略1.0」として、R&D、プラント、サプライチェーン、オフィスという4領域の生産性向上を通じて、プロセスの効率化による余力創出やオペレーションコストの削減に取り組んだ。2021年からの「DX戦略2.0」では、既存事業の競争力確保を目的に、顧客接点強化、顧客満足度向上による付加価値創出に注力している。また、「DX戦略3.0」に掲げる新たなビジネスモデルの実現に向け、自社製品およびコア技術、サービス、データを組み合わせた事業の創出を検討しているところだ。

  • 住友化学のDX戦略ビジョン

金子氏によると、DX戦略ビジョンを実現する上で、全社的な枠組みが必要であるという。

「DX戦略ビジョンのスタート時には、DXソリューションに詳しいコーポレート部門が取り組みを牽引していました。しかし、事業の競争力強化を目指すDX戦略2.0においては、事業部門がオーナーシップを持って主導する体制を構築しています。コーポレート部門は、各DXプロジェクトの実行支援、データやIT基盤の整備、デジタル人材育成という面から連携するかたちです」(金子氏)

また、「デジタル革新部」の設立も、DX推進に向けた体制構築の1つの事例となる。デジタル革新部は、データサイエンスによる業務効率化・高度化を目的とした組織で、研究開発、生産技術、営業・マーケティングの現場で蓄積してきたデータの利活用に取り組んでいるという。さらに、情報システム子会社であった住友化学システムサービスの吸収合併や、アクセンチュアとのジョイントベンチャー・SUMIKA DX ACCENTの設立などによっても、デジタル関連部門の体制強化を進めてきた。

  • 住友化学のDX推進体制

住友化学のDX推進の取り組みにおける特徴は、現場の自発的な取り組みだけでなく、経営トップもリーダーシップを発揮し、トップダウン/ボトムアップの双方から推進している点だ。経営トップは、社内外のステークホルダーに向けてDXの戦略ビジョンや経営として取り組み重要性を発信。また、現場に対しては、チャレンジングな取り組みを評価する表彰制度などで、失敗を恐れず挑戦する社員を後押ししているという。

これに加え、同社はデジタル人材育成の取り組みにも力を入れている。DXと業務双方の知識を掛け合わせたハイブリット人材の創出を目指して、業務領域ごとに必要な人材定義を設定し、具体的な育成目標人数を掲げて計画的に育成を進めているところだ。