日本IBMは10月26日、都内で同社におけるダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂性)領域への取り組みについて、メディア向けにラウンドテーブルを開催した。
IBMにおけるダイバーシティ&インクルージョンの歴史
同社のグローバルにおけるダイバーシティ&インクルージョンの歴史は1899年に女性・黒人の採用を皮切りに1914年に身体障がい者の雇用開始、1943年には初の女性副社長が誕生し、その後も同性パートーナーへの福利厚生適用などに取り組んできた。
また、新CEOは就任時に「Corporate Policy Letter 117」(1953年発行)は、IBMの機会均等に関するポリシーを常に社員と共有することが明記されている。
内容は随時見直され、新CEOは就任時に必ず署名し、社員はいつでも閲覧可能な状態とし、性的指向、性自認は1984年、遺伝子は2005年にポリシーに追加されている。さらに、グローバルのコンセプトとして「Be Equal」を掲げ、行動宣言、コミュニティ形成を進めている。
日本IBM 取締役副社長 兼CDO(チーフ・ダイバーシティー・オフィサー)の福地敏行氏は「個人的な理解として、Corporate Policy Letter 117は人種、肌の色、宗教、性別、ジェンダーなどは、その人個人が持って生まれた個性であり、選択・変更するわけではなく、それをもとに差別するべきではない、という考えが根底にあるのではないかと感じている。これは普通の社会生活のうえでも大切なことだ」と述べた。
続けて、同氏は「日本IBMにおけるダイバーシティの特徴は、当事者とサポーターとなるアライ(性的マイノリティを理解・支援する人たち、またはその考え方を指す)がボランティアでコミュニティを形成し、そこにスポンサーとして役員が入る。当事者とアライからは、さまざまな課題や要望などをヒアリングし、施策やプログラムにつなげている」と話す。
IBMが注力する4分野のコミュニティ
現在、日本IBMでは「Woman(女性)」「LGBTQ+」「DiversAbilities(多様な能力)」「Caregiving help(介護)」の4分野でコミュニティが活動しており、CDOをはじめ各コミュニティのスポンサーエグゼクティブのもとで当事者とアライが自主的に課題の把握、分析、施策の提言、社内外への発信を行っている。
Woman(女性)
4つのコミュニティのうち、女性のコミュニティはキャリア課題の検討とパイプラインの強化に取り組んでいる。1998年に「JWC(Japan Women's Council)」を立ち上げ、2019年から男性社員も活動に参加し、2021年からはアンバサダーチームを設立。また、女性技術者・研究者コミュニティとして「COSMOS」を2005年に発足し、組織を越えたネットワークを構築している。
日本IBM 執行役員 兼 Japan Women's Councilリーダーの川上結子氏は「各組織への浸透を図るためアンバサダー制度としている。各アンバサダーは所属組織のリーダーとともに現状分析・目標設定し、目標に対してどのような取り組みが必要なのかということに取り組んでいる」と説明した。
また、スキルを深め、スポンサー役員のもとでリーダーシップを育成する1年間の女性管理職育成プログラム「W50」を実施。導入の背景としては、過去5年間で女性社員の管理職の割合は13%と横ばいで伸び悩んでいたためだという。
プログラムでは、スキル育成やマネージメントの疑似体験、社内外ネットワークの構築、スポンサーシップ、異業種交流会などを行う。これにより、2019年の受講メンバーのうち60%、2020年は35%が管理職に着任したほか、管理職になりたくない社員も40%から10%に減少した。
川上氏は「JWC発足当時は女性役員が1人だったが、2022年には23%まで拡大した。今後、2025年までに管理職女性比率を25%以上、2030年までに役員レベルの女性比率30%を目指す」と力を込めていた。
LGBTQ+
LGBTQ+については、セクシャルマイノリティの社員が自分らしく働ける環境整備に向けて、2012年に結婚お祝い金の支給対象とし、2016年にパートナー登録制度と同性パートナーに対する福利厚生を拡大。
LGBTQ+自体は社会において認知度は高まりつつあるが、企業では“見えないダイバーシティ”であり、カミングアウトした当事者やアライが居ない状況だという。
そのため、定期的な研修に加え、役員からのメッセージなどで発信。また、社長直下役員は全員アライ宣言を実施していることに加え、レインボーパレードへの参加や外部団体との連携を通して取り組みを強化している。
DiversAbilities(多様な能力)
DiversAbilitiesでは、障がいを持つ社員の能力最大化と環境整備として、障がい者採用枠を設けず、能力と成果による採用・配慮・評価を行っている。
ただ、障がいのある学生・若者の課題として学生時代にアルバイトの経験が持ちにくく、企業で働くイメージが湧かなかったり、自分の障がい種別や特性に応じた仕事にどういう者があるのかを知りたいといったことがあるという。
そのため、障がい者向けインターンシッププログラム「Access Blue Program」を用意。同プログラムは、学生~卒業から5年を対象としており、臨時雇用契約でプログラミング補助者として勤務し、短時間勤務・在宅勤務を活用することで、学業や就職活動、勤務の両立を目指すというものだ。
「Caregiving help(介護)」
介護に関しては、ビジネスケアラー(職に就きながら、家族・親族などの介護を行う人)社員が介護と仕事の両立を継続できる理解の醸成と環境整備を図るため、昨年にコミュニティを発足。
コミュニティでは「介護に備えられる安心」「介護しながら働ける安心」を社員が持ち、ワークライフバランスを実現できるような取り組みを開始している。
具体的にはワークショップを開催して介護に関する社員の悩みをヒアリングし、介護制度やナレッジを集約して共有することで、知識を得て不安を取り除けるための活動を行っている。
男性の育休取得も促進
ラウンドテーブルの後半では、育児・介護休業法の改正に伴い10月から施行された「出生時育児休業(産後パパ育休)」について日本IBMの取り組みが紹介された。法改正により、男性の育休取得が柔軟になり、産後パパ休暇や分割取得ができる。
同社における男性社員の育休取得率は2021年に44%だったが、2022年は78%に拡大しており、男性育休(性別によらずパートナーも含む)が当たり前な組織風土と日本社会を目指している。
育休を取得した社員へのインタビューやダイバーシティ&インクルージョンの推進活動から見えてきた男性育休が当たり前な企業、そして社会のヒントとなるため、ブログでも定期的に発信している。また、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏は男性育休取得率100%(取得したい人は必ず取得できるという意味で100%)を宣言している。
最後に福地氏は「多様性に富んだ社会、豊かな生活を実現するためにさまざまなステークホルダーとつながり、有識者会議や各種セミナー、論文・研究活動、成果発表など情報共有・意見交換を行っている」と述べていた。