名古屋大学(名大)は10月25日、国際共同プロジェクトによる運用される、NASAが打ち上げた天体の磁場の観測が可能なX線偏光測定衛星「IXPE」を用いて、超新星残骸「カシオペア座A」(Cas A)を観測した結果、磁場が全体的に見れば中心から放射状に伸びていたこと、偏光度が低かったことなどが明らかにされたと発表した。

同成果は、名大大学院 理学研究科の三石郁之講師も参加する、米国(NASA)とイタリア(イタリア宇宙機関)主導の、総勢100名弱の研究者が関わる国際共同プロジェクトによるもの。日本からはほかにも、大阪大学、広島大学、理化学研究所、山形大学、東京理科大学、中央大学の研究者が参加している。詳細は、米天文学専門誌「The Astronomical Jounal」に掲載された。

IXPEはImaging X-ray Polarimetry Explorerの略で、NASAによって2021年12月9日に打ち上げられた。X線の軌跡をマッピングすることで偏光を把握する仕組みを持ち、それを観測することで、目に見えない磁場の様子を可視化することを可能としている。

Cas AはIXPEが最初に観測した天体で、選ばれた理由の1つは、その衝撃波(ジェットによって生成されるソニックブームのようなもの)が、天の川銀河で最速であるというためだという。衝撃波は超新星爆発によって生成され、爆風からの光は、300年以上前に地球を通り過ぎたとされている。

磁場によって陽子や電子などの荷電粒子は加速するが、超新星爆発のような極端な状況では、星の爆発で外縁部に形成された衝撃波により、粒子が光の速度近くまで加速されることもある。

研究者たちの事前の予想では、X線放射は最近加速された粒子により、衝撃波の近傍のみで生み出されるので、衝撃波に沿った円弧状に揃った磁場と高い偏光度が観測されるというものだったという。

しかしIXPEによる観測結果は、その予想とは異なり、磁場は全体的に見れば中心から放射状に伸びていることが判明したとする。また偏光度も低かったことから、粒子が加速される現場で、磁場が入り乱れていることが示されているとする。

なお、IXPEによる超新星残骸の観測はCas A以外に対しても始まっており、今後の成果が期待されるとしている。

  • IXPE測定から得られた磁場方向を示すデータを重ねたもの

    画像2。画像1にIXPE測定から得られた磁場方向を示すデータを重ねたもの。緑色の線は、測定値的に最も重要とされる領域が示されている。この結果は、Cas A近傍の磁力線が放射状に、つまり残骸中心から外側に向かう方向に大きく向いていることが示されているとした。今回の観測で、小さな領域の磁場が強く絡み合っており、支配的で優先的な方向がないことも明らかにされた (c)X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO; IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.; (出所:NASA Webサイト)