近畿大学(近大)、群馬大学(群大)、金沢大学(金大)の3者は10月19日、腸内細菌により作り出された「芳香族アミン」の一種である「フェネチルアミン」がセロトニンの産出を促進していること、その結果として骨粗しょう症や過敏性腸症候群をはじめとした疾患を引き起こしている可能性があることを明らかにしたと発表した。
同成果は、近大 生物理工学部 食品安全工学科の栗原新准教授、群大 食健康科学教育研究センターの杉山友太助教、金沢大 新学術創成研究機構の岡本成史教授らを中心に、石川県立大学、京都大学の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、腸内細菌に関する全般を扱う学術誌「Gut Microbes」に掲載された。
近年、腸内細菌が作り出す代謝産物が、宿主のさまざまな健康状態に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。腸内細菌が作り出す物質のうち、芳香族アミンは少量でも神経伝達に影響を与える化合物として知られている。同化合物は、腸内細菌が肉や豆などのタンパク質に材料として含まれる芳香族アミノ酸を変換することで作り出している。ただし、これまで腸内細菌が作り出す芳香族アミンの量と種類を、遺伝子レベルで解析した研究はほとんどなかったという。さらに、芳香族アミンが宿主に与える影響についても未解明な点が多くあったという。
そこで研究チームは今回、ヒト腸内に高い割合で存在する腸内細菌について、芳香族アミンの一種であるフェネチルアミンの産生能を網羅的に評価することにしたという。
具体的には、ヒトの腸内細菌のうち、占有率の高い32種について試験管内での培養実験を行い、フェネチルアミンを産生する菌は5種いることを確認したほか、その5菌種による芳香族アミンの生成量と種類の比較を実施したところ、菌種ごとに大きく異なっていたとする。
また、その5菌種の特定の遺伝子を大腸菌に導入して培養したところ、本来は芳香族アミンを作れないはずの大腸菌から産生されることを確認。このことから、芳香族アミノ酸から芳香族アミンを生成する酵素「芳香族アミノ酸脱炭酸酵素」(AADC)の遺伝子が同定された。
さらに、腸内細菌を多く含むヒトの糞便に、芳香族アミノ酸であるフェニルアラニンを添加して培養が行われたところ、産生されたフェネチルアミンの量と、ヒト腸内で占有率の高い菌の一種である「ルミノコッカス グナバス」のAADC遺伝子の量の間に相関が見られたという。このことから、腸内常在菌がAADCを用いて、ヒト腸内で芳香族アミンを産生している可能性が高いことが確認されたとする。