8月末に日本版ポッドキャスト「Cyber Security サウナJapan」の配信を開始したWithSecure(ウィズセキュア、旧社名: F-Secure)の日本法人。残暑がまだ厳しい9月中旬に、同社がポッドキャストの収録を東京・西荻窪のフィンランド式サウナ施設「ROOFTOP(ルーフトップ)」で行うと聞きつけ、現場に潜入取材することにした。

猫も杓子もサウナ

日本では空前のサウナブーム。現在のサウナブームは第3次らしく、国内では1956年のメルボルンオリンピックに出場した外国人選手が愛用していたスチームサウナから着想を得た、クレー射撃日本代表の許斐氏利氏が同年に銀座の東京温泉(現在は廃業)に設置したことから、サウナが日本国内でも注目を集めるきっかけになったそうだ。

第3次サウナブームに沸くに沸く日本では、従来は年齢層が高い男性に好まれる傾向があったが、最近では性別・年齢問わず解放感を求めてサウナ―が街を彷徨っており、まさに猫も杓子もサウナ状態となっている。

かくいう筆者も、従来はスーパー銭湯などで年に10回入るか入らないか程度だったが、出張でサウナ発祥の地とされているフィンランドに赴いて以来、ストレス社会をサバイブするために週2~3回以上通うサウナ中毒(サウナ―ではなく、あくまでも現状では中毒者だ)に陥っている。

また、サウナ激戦区と言っても過言ではない東京・錦糸町から自宅も近いため、つい最近自慢のボナサウナを改修したばかりの「スパ&カプセル ニューウイング」やネオ銭湯サウナとして名高く、大学生の若者も多い「黄金湯」、そして老舗の「楽天地スパ」などにお世話になっている次第だ。

フィンランドのサウナ文化

一方、フィンランドは約2000年以上、サウナの歴史があるとされている。そもそも“サウナ”という言葉自体がスオミ(フィンランド)語で「蒸し風呂」を意味する。

フィンランドの人口560万人に対して公衆サウナや集合住宅の共用サウナ、家庭用サウナを含めると約300万以上も存在し、サウナが人口の半分以上を占めているというから驚きだ。

平たく言えば、日本のお風呂のように日常の一部となっているのがフィンランド人としてのサウナなのだ。入浴方法は日本であれば、いわゆる“ととのう”ことを目的にサウナ→水風呂→休憩(外気浴)というサイクルが基本だ。

しかし、フィンランドの場合は北欧という土地柄なのか水風呂の存在自体あまり見ない。都市部のサウナはシャワーを浴びて外気浴となるが、海沿いや湖畔のサウナは海ないしは湖に飛び込んでから外気浴を行う。

アルコールについても日本であれば基本的に入浴中は禁止だが、フィンランドでは野外のサウナ小屋でビールなどお酒を飲むこともあるほか、都市型の公衆サウナであればサウナの合間にお酒、軽食を楽しんでいる。

また、ドライサウナがほとんどなく、ストーブに積まれたサウナストーンに水をかけ、蒸気を発生させて湿度を上げるロウリュがフィンランドでは一般的だ。

フィンランドのWithSecureで本家本元のCyber Security Saunaのホストを務め、サウナマスターでもあるJanne Kauhanen(ヤンネ・カウハネン)氏は言う。

「サウナは我慢比べ、競争じゃない。心と体をリラックスさせて人々と自由に交流する平等な場所です」と。サウナのパダワンとしては、身に染みる言葉だ。

  • 本家本元のCyber Security Saunaのホストを務め、サウナマスターでもあるJanne Kauhanen(ヤンネ・カウハネン)氏

    本家本元のCyber Security Saunaのホストを務め、サウナマスターでもあるJanne Kauhanen(ヤンネ・カウハネン)氏

  • WithSecureの本社屋上にはサウナが完備されている

    WithSecureの本社屋上にはサウナが完備されている

一概にどこのサウナが良いというわけでなく、それぞれのお国柄、人々に合った入浴方法で嗜まれているのがサウナというわけだ。以下に筆者も仕事の合間に訪れた嗜好性の異なるフィンランドのサウナを2つ紹介する。

Uusi Sauna(ウーシサウナ)

フィンランド・ヘルシンキの中心地にある公衆サウナ「Uusi Sauna」。Uusiとはスオミ語で「新しい」という意味だ。2018年にオープンし、北欧らしくスタイリッシュなデザインの内外装が印象的。男女別、ミックスの計3つのサウナ室があり、マリメッコのタオルをレンタルできる。バーも併設されており、老若男女がサウナ前後、サウナの合間にお酒や軽食を楽しんでいた。サウナ後にビールを飲んでいたらオーナーらしき男性に日本語で「トトノッタ!?」と聞かれ、ビールを吹きそうになった。どうやら日本人の知人が多いらしく、日本のサウナ関連の書籍にも掲載されている方だった。

  • Uusi Saunaの外観

    Uusi Saunaの外観

  • Uusi Saunaに併設されたバー

    Uusi Saunaに併設されたバー

Sompasauna(ソンパサウナ)

ヘルシンキ中心地から少し離れた埋立地にある、地域の人々が共同で24時間365日運営している無料のDIYサウナ「Sompasauna」。計3棟のサウナ小屋があり、バルト海・フィンランド湾に面しているためサウナ後に飛び込める。フィンランド湾の塩分濃度は低く淡水に近いため出た後も肌へのベタつきはない。あくまでもDIYのサウナなので、地元のフィンランド人が居れば大変ありがたいが、居なければ自分で薪を割り、火入れまでしなければならない可能性も。また、基本的に屋根しかない場所で丸見えの状態で着替えるため事前の水着着用がおすすめ(ヌード禁止ではない)。幸いにも親切なフィンランド人が居てくれたおかげで楽しめた。最近では人気があるらしく混雑しているため、恐らく誰かしらいるはずだ。

  • Sompasaunaの外観

    Sompasaunaの外観

  • Sompasaunaはバルト海・フィンランド湾に面しているため、サウナ後に飛び込める

    Sompasaunaはバルト海・フィンランド湾に面しているため、サウナ後に飛び込める

  • Sompasaunaの「iki」の薪ストーブ

    Sompasaunaの「iki」の薪ストーブ

ROOFTOPのサウナで沈思黙考

閑話休題。少しどころか、熱に蒸されて(浮かされて)かなり前置きが長くなってしまった……。気を取り直して、ここから本題に入りたいと思う。

今回、ウィズセキュアがポッドキャストを収録したROOFTOPは、JR西荻窪駅から徒歩3分の場所にあるビルの4階にあり、男女ともにサウナを楽しめる施設だ。

男性用サウナ室には特注の巨大サウナストーブがど真ん中に鎮座しており、キャパシティは30人程度、水風呂用の1人用バスタブが4つ、外気浴スペースにはフルフラットも含めて10脚以上の椅子があり、オートロウリュは10分ごと、サーキュレータで蒸気をぶん回すアロマロウリュは1時間に1回と余念がない。

  • サウナストーブ

    サウナ室のど真ん中に特注のサウナストーブが鎮座している

  • 水風呂

    水風呂は珍しく、1人用のバスタブだ

  • 外気浴スペース

    外気浴スペース。この日は天候にも恵まれた

当日は午前7時から貸切サウナを楽しんだ。人生初の貸切サウナ。幸福度は増すばかりだ。この日はブラックフォレストのアロマロウリュを堪能し、平日の朝っぱらからバッキバキに仕上がり、ロッカールームへ。

だが、肝心の収録はどこでやるのか皆目見当もつかない。すでにサウナ室は貸切も終わり、通常のお客さんもいるし、かといってロッカールームから出たらすぐにエレベーターだから収録できるようなスペースはないし……。

そんな仕上がった状態で思索の荒野を闊歩していたところ、確か階下の3階はコワーキングスペースらしきものがあったなぁ、なんてことを思い出した。ウィズセキュアの担当者に聞いてみると「コワーキングスペースの貸会議室をおさえているのでそこでやります」との回答。やはり。さすがの段取りでございます。

ととのいも新たに早速3階に向かう。そこはROOFTOPに併設されているコワーキングスペース「LifeWork」。朝の9時過ぎにもかかわらず多くの人がおり、正直驚いた。恐らく、ここにいる方たちのやりたいことは共通しているはず。それは仕事前後のサウナだ。もちろん、サウナを利用しなくてもコワーキングスペースは利用できる。

  • 「LifeWork」には朝早くにもかかわらず多くの人がいた

サウナ後に「ランサムウェア」を議論

そんなこんなで事前準備もあったため、午前10時前後からリハーサルを行い、その後本番を迎えた。今回は「Episode #2」として「ランサムウェア」について議論が交わされた。(ようやく収録の話……!)

  • 収録が行われたLifeWork内の貸会議室

    収録が行われたLifeWork内の貸会議室

ととのった状態でランサムウェアの話なんてできるのか……?収録前に感じた一抹の不安。ただ、逆にととのった状態だからこそ、感覚が研ぎ澄まされるのかもしれない。なんて想像しながら、まだまだひよっこの筆者はサウナ後でフワつく体に鞭を打ち、見守ることのみに集中した。

Cyber Security サウナJapanのホストは、ウィズセキュア プリンシパルセキュリティコンサルタントでフィンランド・ヘルシンキ出身のAntti Tuomi(アンッティ・トゥオミ)氏と、同 法人営業本部シニアセールスマネージャーである河野真一郎氏だ。両人ともに、生粋のサウナ―であることは言うまでもない。

  • 本番中のトゥオミ氏と河野氏

    本番中のトゥオミ氏と河野氏

収録では、ランサムウェアの基本的な話から最近の傾向、復旧方法などが話された。詳細は実際のポッドキャストを視聴いただければと思う。以下に要点をまとめてみた。

  • ランサムウェアは侵入方法というよりは悪意のあるマルウェアで脅迫を行う

  • ランサムウェア登場の背景は暗号通貨の流行がある

  • メール添付以外にも最近はサーバの脆弱性悪用、Active Directory経由で組織全体のPCとサーバを支配して重要資産や研究上などの窃取などがあり、侵入経路が何であれ攻撃を仕掛ける傾向

  • 新しい種類のランサムウェアは減少しているが、攻撃、被害自体は拡大している

  • 攻撃されて防げなければ手遅れ

  • クラウド化の流れに逆行するがバックアップサーバやディスクを完全にオフラインにすることが1つの有効な対策

  • ヨーロッパのグローバル企業がランサムウェアの被害に遭ったが、たまたまアフリカのドメインコントローラだけが停電でオフラインになっていたため復旧できた

  • ウクライナは多くのサイバー攻撃を受けたがバックアップからの復旧やオフラインに戻す練習などの体制構築のおかげで復旧が得意

  • 企業の対策として予防と検知はかなり重要なため、技術的な予防に加え、社員のセキュリティ意識の向上も実施するべき

サウナを通じて適切なセキュリティの情報を届ける

当初はととのった状態で収録できるのかと心配していたが、実際にホストの2人は驚くほどリラックスかつ精悍な顔つき(なんならサウナ後だから肌ツヤツヤ、目キラキラ)で収録を敢行しており、語り口は軽妙洒脱そのもの。これもひとえにサウナで沈思黙考していたからこそ、感覚が研ぎ澄まされたのだろう(と勝手に思っている)。

  • 本番中のトゥオミ氏

    本番中のトゥオミ氏

  • 本番中の河野氏

    本番中の河野氏

収録後にホストの2人に日本版の意義を聞いたところ、セキュリティ関連ではWithSecureのみならず英語版のポッドキャストはあるが、あまり視聴されていないという。

また、ネット上では日本語の情報はあるものの、ポッドキャストで配信しているベンダーもそこまでいないことから、日本語版の配信を開始したとのことだ。

確かに、国内において日本語でセキュリティ関連の情報をポッドキャストで配信している企業というのは個人的には聞いたことがない。

このように、ウィズセキュアでは日本人に向けてサウナを通じ、適切なセキュリティの情報をポッドキャストで届けている。今後は他社ベンダーの担当者や同社のブランドアンバサダー、カスタマーアンバサダーなどをゲストに迎えて、ポッドキャストを配信していくという。

本家本元のCyber Security Saunaは2017年に配信を開始し、2022年10月時点で69のエピソードを公開しており、日本版も継続的な配信を期待したいところだ。

そのため筆者としても引き続き、Cyber Security サウナJapanの動向を注視していければと考えている。