東京大学(東大)は9月30日、電磁場により真空中に浮遊する電子の運動状態を、電子と超伝導量子回路および電子と真空中に捕獲された原子イオンという、2つのハイブリッド量子系の利用によりそれぞれで量子レベルで観測・制御する手法を発明したことを発表した。

同成果は、東大大学院 総合文化研究科の長田有登助教、同・谷口建人大学院生、同・重藤真人大学院生、同・野口篤史准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物理とその関連分野を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Physical Review Research」に掲載された。

量子コンピュータや情報理論的安全性を付与できる量子通信、それらを組み合わせた量子ネットワークなどの応用に向けて、超伝導量子回路や真空中に捕獲された原子イオンをはじめとする、さまざまな物理系を利用した量子系の個別制御が試みられている。そのような物理系に要求される主要な性質としては、主に以下の2点が挙げられる。

  1. 量子状態を保っていられる時間であるコヒーレンス時間が長いこと
  2. そのコヒーレンス時間より十分短い時間で量子操作・量子測定などの制御が可能であること

この2点を兼ね備えた新たな物理系として、電磁場により真空中に浮遊させた電子の利用が近年脚光を浴びている。これまで、浮遊電子のスピン状態を量子ビットとした量子操作の提案および電子を実際に捕獲したという実験の報告があるが、高精度な量子操作のために重要な電子の運動状態の冷却と観測を量子レベルで行うのは浮遊電子のみでは困難だったという。

そこで研究チームは今回、すでに技術がある程度確立された超伝導量子回路および真空中に捕獲された原子イオンに対し、それぞれ浮遊電子を組み合わせ、ハイブリッド量子系を開発することで上述した課題の解決を図ることにしたという。

  • 2種類のハイブリッド量子系のイメージ

    2種類のハイブリッド量子系のイメージ。(a)浮遊電子と超伝導量子回路。(b)浮遊電子と原子イオン (出所:東大Webサイト)