パブリッククラウド・インフラストラクチャについて考えるとき、多くの人は、コンピューティング、ストレージ、ネットワーク用の機材が詰め込まれた巨大な建物の集合を思い浮かべるのではないでしょうか。これらの巨大なデータセンター・ファームは、主に数十の先進国にあり、あらゆるクラウドサービスの発信地となっています。

しかし今日の世界では、企業や行政機関がより速く、より短い距離でサービスを提供することを求めています。このトレンドに対応するには、広大な敷地を必要とせず、企業のデータセンターや安全なサーバルームに設置可能な、小規模ながら強力なクラウド・インフラストラクチャの普及が必要となります。

実際に、大規模なデータセンター(「クラウド・リージョン」と呼びます)は、あらゆる場所で利用できるわけではなく、すべてのニーズに対応できるわけでもありません。2022年、こうした最新の需要に対応するには、クラウドをより分散させなければなりません。品質や強みを失うことなく、より小さな塊で、より多様な地域で利用できるようにする必要があります。

ある意味で、クラウドは過去の世代のコンピューティングの歴史をたどっています。初期のコンピュータは、部屋全体を占めるほど巨大なものでした。そして、これらのメインフレームがコツコツと奮闘続ける一方で、小型で強力なミニコンピュータが登場し、次いでデスクトップPC、ラップトップ、タブレット、スマートフォン、さらには小型ウェアラブル端末まで、初期のメインフレームを上回るパワーを持つ製品も登場しました。

データ主権の必要性

分散型クラウドは、企業だけでなく、安全なクラウド・インフラストラクチャを必要とし、管轄地域内にパブリッククラウド・リージョンを持たない行政機関からも需要があります。

現在、国が政府機関のデータと国民のデータを自国の法律や規制の対象とする傾向が強まっています。このデータ主権の義務に加え、多くの国ではデータ・レジデンシーにも制限を設けており、情報を国内で保存、管理することが求められています。

このようなルールは、第1世代のクラウド・プロバイダーにはジレンマとなります。国連の加盟国は193ありますが、特にアフリカ、南米、アジアでは、多くの国がパブリック・クラウド・リージョンをホスティングしていません。これらの国は、どうすればデータ主権やデータ・レジデンシーのルールを守れるでしょうか。

これらの国は、倉庫よりも小さな場所で利用可能なパブリッククラウド・サービスに目を向けることができます。そのためには、10ラック、5ラック、あるいは2ラックのコンピューティング装置で提供されるパブリッククラウド・サービスが必要となります。

高速化

世界中に配置された巨大なクラウド・データセンターは素晴らしい成果を上げていますが、距離が問題となるのは今も昔も変わりません。クラウド・リージョンがユーザーから遠く離れるほど、運用時のレイテンシー(遅延)は大きくなります。このような遅延を解消するには、コンピューティング・パワーを利用者に近づける必要があります。これは、クラウド・コンピューティングをこれまでよりも多くの、そして、より管理しやすい形で利用できるようにすることを意味します。

しかし、本格的な分散型クラウド・サービスが対応するのは、スピードに対するニーズだけではありません。規制の対象となる業界(医療、金融サービス、運輸など)の企業には、一部の重要業務の統制を保持することが求められます。

つまり、これらの企業は、古いテクノロジーでそのままワークロードを実行し続けるか、自社施設内に弾力的なクラウド・サービスを導入するか、いずれかを選択する必要があります。遠く離れた誰かのインフラストラクチャにデータを置くことでは解決できません。

重要な同一性

最後に、もう一つ極めて重要な点があります。ワークロードの一部を自社施設内で実行し、一部をサードパーティのパブリッククラウド・リージョンで実行する必要がある場合、その両方で同じサービスを利用できることを確認する必要があります。

この対称性があれば、必要に応じてワークロードをパブリッククラウドに「バースト」できます。パブリッククラウドとプライベート実装の間に同一性がなければ、このようなワークロード・バランシングはミスマッチによって不可能になります。

そのために、パブリッククラウドを利用してサービスの一部だけをオンプレミスで実行できるようにすることは、理想的ではなく将来的に問題を生じる可能性があります。

10年前、著名なアナリストは、パブリッククラウド・インフラストラクチャは、このような需要に対応するために時間の経過とともに、より分散化されると予測していました。多くの顧客にとって理想的なシナリオは、ハイパースケール・クラウド・リージョンであれ、自社データセンターであれ、オンプレミスのサーバルームであれ、自社で選んだ場所からパブリッククラウドのフル機能が提供されることです。そしてもちろん、クラウド・コンピューティングの次の10年は、この方向で進化しています。

著者プロフィール


米Oracle Oracle Cloud Platform担当シニア・バイスプレジデント兼チーフ・テクノロジー・オフィサー


グレッグ・パブリック(Greg Pavlik)