両備システムズは9月6日、オンラインでメディア向けに、同社における「ICT事業の進捗と今後の展望」に関する説明会を開いた。

両備システムズが目指す場所

同社は両備ホールディングスでシンク、ドリームゲート、ラオスのRyobi LaoとともにICT部門を担っている。主に公共、医療、社会保障分野、民間企業向け情報サービスの提供、システム構築、データセンター事業、クラウドサービス事業、セキュリティ事業を手がけている。

業績は、2021年度(1月~12月)のICT部門における連結売上高は前年比23.8%増の382億2200万円、経常利益は同24.2%増の32億4800万円と好調に推移。要因としては、AI-OCRなどを活用した給付金業務や旺盛なIT需要に加え、GIGAスクルール事業、クラウド関連事業の受注を挙げている。

同社では、2021年度に国が進める自治体標準化に向けて今年1月に「パブリックセクター戦略室」を新設して、自治体システム標準化に対応したほか、民需拡大への投資としてアパレル系システム開発を行うドリームゲートの全株式を昨年11月に取得し、物流・流通ビジネスの基盤システムの構築に着手した。

また、昨年12月に株式取得で100%グループ会社化し、行政分野への情報サービスを事業としているシンクでは主力商品の「債権管理システム」の導入ユーザーが346団体に達している。

  • 2021年度の事業概要

    2021年度の事業概要

同社では、ICT部門の中期経営計画として2030年に売上高500億円を目指しており、2-021年~2023年を統合・変革期としてビジネスモデルの変革を図り、2024年~2026年を浸透・推進期と位置付け、2階建てビジネスの伸長、M&Aによる事業拡充を計画。そして、2027年~2030年は達成目前期として500億円達成を目前とした次の成長機会の獲得を掲げている。

  • 中期経営計画の概要

    中期経営計画の概要

両備システムズ 代表取締役副社長の小野田吉孝氏は「新型コロナウイルスによる給付金事業などもあり、昨年380億円を達成しているものの特需だと考えている。そのため、来期以降に中期経営計画の見直しを考えている」と述べた。

  • 両備システムズ 代表取締役副社長の小野田吉孝氏

    両備システムズ 代表取締役副社長の小野田吉孝氏

2030年500億円に向けた両備システムズのビジネス変革

現状は統合・変革期として、同社では(1)プラットフォーム拡張とサービスの連携、(2)インフラビジネスの拡大、(3)新規ビジネスへのチャレンジ、(4)民需系事業の拡大、(5)積極的M&A投資に取り組んでいる。

  • 統合・変革期における取り組みの概要

    統合・変革期における取り組みの概要

プラットフォーム拡張とサービスの連携では、LGWAN(Local Government Wide Area Network:総合行政ネットワーク)拡充と両備グループとのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進でプッシュ型サービスを拡充する。

LGWANの拡充では、ガバメントクラウドの本格展開を見据えて、同社のLGWAN連携対応クラウド「R-Cloud」でネットワークとセキュアに連携するサービスを拡大している。

直近で拡充したサービスとしては、LGWANから接続可能なファイル共有サービス「R-Cloud FileShare」、「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」のクラウド上に構築されたSaaS(Software as a service)をLGWANに提供できる「OCI LGWAN接続サービス」、住民通知をデジタル完結するサービス「SmartPOST」などの実績がある。

  • 統合・変革期における取り組みの概要

    LGWANを拡充している

両備グループとのDX推進は、昨年に岡山市で開設したオフィス、商業棟、マンション、ホテルなどを含めたスマートシティ「杜の街」で9月に「杜の街アプリ」の提供を予定し、来客者や従業員などの情報を一元管理し、新たなサービスの提供を目指している。

インフラビジネスの拡大については、BPOサービスを支えるために自社データセンター「Ryobi-IDC」と直結したLGWANネットワークによるセキュアなLGWAN環境を基盤サービスとして提供しているが、2023年に400~500ラック規模の第3棟建設に向けた企画設計に着手することを計画。

  • データセンターの新設を計画している

    データセンターの新設を計画している

新規ビジネスへのチャレンジではAIによる新たな付加価値の創出を図るため「メディカルAI」とFinTechに取り組む。メディカルAIは2018年から岡山大学との共同研究による早期胃がんAI診断システムの開発を進めており、2023年度中の事業化を目指し、2030年度に10億円の事業規模を想定している。

  • 新規ビジネスではメディカルAIに注力している

    新規ビジネスではメディカルAIに注力している

FinTechは、昨年2月にプロ為替ディーラーの鈴木恭輔氏が入社し、同氏の知見をもとにしたアルゴリズムを開発、今年7月に限度額3億円で社内運用を開始しており、2023年度中にAI特化型の為替ヘッジファンドの設立を予定している。

民需系事業の拡大に関しては、9月6日に発表したファッション・アパレル業の受注・生産・販売・在庫管理・出荷までの機能をワンストップで提供するサービスを開発し、2023年から順次開始する。

受注から出荷までをデジタル化し、マテハンまで連携して物流DXを実現し、SPA(製造販売)に対尾するとともに商品計画立案と、複雑な輸入業務をサポート。さらに、ECと店舗の在庫の一元管理で最後の1点まで売り切る仕組みを実現しているという。2030年度の売り上げ目標は50億円を目指している。

  • システム概要

    システム概要

積極的M&A投資については、前述した昨年11月のドリームゲートの株式取得に加え、今年1月にマイナンバーカードに特化したデジタルIDソリューションを提供するxID(クロスアイディー)と業務提携し、マイナンバーカードを使用した公的なデジタル認証(デジタルID)を提供。また、6月にはインバウンド向け観光プラットフォーム「MATCHA」と資本提携し、今後もベンチャーなどへの投資やM&Aを継続していくという。

  • 積極的M&A投資の概要

    積極的M&A投資の概要

小野田氏は「公共系は自社のサービスを展開していたことから、受託開発はなかったが、民需系は7~8割が受託開発であることから、当社自身のビジネスモデルを変革するため、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、Salesforceなどの技術を取得しつつサービスの展開に打って出ている。そのため、リスキリングも含めてネイティブの開発者を育成するとともに、クラウドセキュリティのノウハウもなければサービスも提供できないため、セキュリティ人材の拡充も進めている」と力を込めていた。