植物にエタノールを与えると乾燥に強くなることを発見したと、理化学研究所の研究グループが発表した。エタノールは安価で入手しやすく、さまざまな農作物への応用、肥料や栽培技術の開発につながると期待されるという。
気候変動や人口増加による食糧不足を解決するためには、環境ストレスに強い作物の開発が有効と考えられる。研究グループはこれまでに、植物にエタノールを与えると塩や強い光、高温に強くなることを明らかにしていた。これらに続き、乾燥に強くなるかどうかや、その仕組みを調べた。
実験によく用いられるモデル植物のシロイヌナズナに、低濃度のエタノール水溶液を根から3日間与えた後、12日間にわたり給水を絶った。続いて4日間給水して観察したところ、比較のため水しか与えなかったものは、ほぼしおれてしまったのに対し、エタノールを与えたものは再び葉が育ち生存率が高まっていた。エタノールの濃度が10ミリモルの場合に、最も効果が高かった。コムギやイネ、キャッサバでも効果があった。
エタノールを与えると、水を蒸散する気孔の閉鎖が促され、細胞内の水分が減りにくくなっていた。
また、エタノールが体内に取り込まれて代謝され、酢酸や糖、アミノ酸ができて蓄積していた。気孔が閉じて二酸化炭素の取り込みが減るものの、体内で糖が作られて成長が維持されることや、グルコシノレート、フラボノイド、アントシアニンなどの乾燥耐性に関わる有用な物質が多く作られ蓄積することも分かった。エタノールを与えると、これらの効果が組み合わさって乾燥に強くなると考えられる。
乾燥時に体内に蓄積する植物ホルモン「ABA」の働きを妨げると、エタノールの効果はなくなった。
研究グループの理研環境資源科学研究センター植物ゲノム発現研究チームの関原明(せき・もとあき)チームリーダー(植物分子生物学)は会見で「エタノール処理で乾燥ストレス耐性が強まる。その仕組みも解明した。簡便かつ安価に乾燥や旱魃(かんばつ)に対処できる技術として応用できる」と述べている。有用な代謝産物の多い作物の開発も期待できるという。
研究グループは理研、横浜市立大学、龍谷大学、名古屋大学、筑波大学、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で構成。成果は日本植物生理学会の学術誌「プラント・アンド・セル・フィジオロジー」の電子版に8月25日に掲載された。研究は理研-産総研チャレンジ研究、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、同研究成果最適展開支援プログラム、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援を受けた。
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