中国の宇宙機関、中国国家航天局は2022年8月5日、「再使用型試験宇宙機」の打ち上げに成功したと発表した。

宇宙機は軌道上に一定期間とどまり、軌道上サービスを行ったのち地上に着陸。宇宙機の再使用に関する技術実証を行うとしている。ただ、機体の姿かたち、運用期間などは明らかにされておらず、多くのことが謎に包まれている。

  • 再使用型試験宇宙機の打ち上げに使われた長征二号Fロケットの同型機

    再使用型試験宇宙機の打ち上げに使われた長征二号Fロケットの同型機。写真は2011年11月の宇宙ステーション実験機「天宮一号」の打ち上げ時のもの (C) CMSE

再使用型試験宇宙機

航天局によると、再使用型試験宇宙機は甘粛省北西部にある酒泉衛星発射センターから、「長征二号F」ロケットを使って打ち上げたとしている。

打ち上げ時刻も不明だが、日本時間16時ごろだと推察される。

米軍の観測により、軌道上になんらかの物体が投入されたことが確認されており、打ち上げ成功が裏付けられている。軌道は高度346 × 593km、軌道傾斜角50.0度の地球低軌道とされる。

打ち上げ後、航天局は短いプレスリリースを発表。「再使用型試験宇宙機は軌道上で一定期間運用したあと、中国内の着陸予定地に帰還する。その間、再使用や軌道上サービスの技術検証を行う。宇宙の平和利用のための技術的サポートの提供が目的である」と述べている。

それ以外の機体の姿かたちや性能など、詳細は一切謎に包まれている。そのため軍事目的のミッションであることはほぼ間違いない。

中国が再使用型試験宇宙機という名前の宇宙機を打ち上げたのはこれが2回目で、前回は2020年9月4日に打ち上げられ、2日間宇宙に滞在したのち、6日に地球に帰還している。

打ち上げ場所、打ち上げに使ったロケットも今回と同じで、打ち上げ時刻も16時30分ごろと今回と近い。ただ、このときは高度約340km、軌道傾斜角50.2度の真円に近い軌道の軌道で運用されたが、今回は遠地点高度が1.7倍ほど高い楕円の軌道である。これが何らかの意図があってのことなのか、それともトラブルなどによるものなのかは不明である。

2020年の飛行では、最終的に東経89.27度、北緯40.78度の、新疆ウイグル自治区バインゴリン・モンゴル自治州ロプノール県にある飛行施設に着陸したものとみられている。この場所は数年前から用途不明の長大な滑走路が建設されていることがわかっている。この施設には、3本の滑走路が三角形の形に配置されており、あらゆる方角からの離着陸に対応できるようにする目的があるものとみられる。また、その一本あたりの長さも約5kmと長大であり、その一方で一般的な航空機の運用施設のようなものが見られないなど、宇宙機の着陸場所と考えられる要素がいくつもある。

また、再使用型試験宇宙機という点から、今回打ち上げられたのは2020年に飛行した機体を再使用した、2回目のミッションである可能性もある。

推測されるミッションの概要や目的

再使用型の宇宙機をめぐっては、米空軍と宇宙軍が2006年から「X-37B」という機体を運用している。小型・有翼の宇宙往還機で、これまでに同型機が2機製造され、5回の宇宙飛行ミッションに成功。2020年5月には6回目のミッションに飛び立ち、2年以上経ったいまなお軌道上に滞在し続けている。

中国の再使用型試験宇宙機もまた、X-37Bに似た機体である可能性は高い。とくに、NASAのスペースシャトルなどと異なり、ロケットの先端に搭載され、なおかつ衛星フェアリングの中に収められた状態で打ち上げられるという点は同じである。それゆえに、機体の形状なども近い可能性が高い。

ステルス戦闘機の開発などでみられるように、中国は米国など他国の機体のデザインなどを参考にし、その技術などを素早くキャッチアップしていることが知られていることからも、X-37Bを参考にした可能性がある。

  • 米国が運用するX-37B

    米国が運用するX-37B (C) USAF

ただ、打ち上げに使われた長征二号Fロケットは、地球低軌道に約8.6tの打ち上げ能力をもつことから、宇宙機もそれに近い質量をもっているものとみられる。X-37Bの質量は3.2tであることから、まったくのコピーというわけではなく、2倍近い大きさの機体である可能性もある。

また、長征二号Fは有人ロケットであるため、人が乗るために安全装置や振動抑制機構など、無人のロケットには不要な装備がいくつもついている。そのようなロケットを使って打ち上げたということは、将来的に有人飛行を行うことを念頭に置いている可能性もある。

なお、再使用可能な宇宙船という言葉は、必ずしも有翼機だけを指すわけではなく、米国スペースXの「クルー・ドラゴン」のようなカプセル型である可能性もある。ただ、中国においては、再使用型のカプセル型宇宙船は別のプロジェクトとして開発が進んでおり、2020年5月には試験飛行を行い、その画像なども広く公開されている。また、2020年の飛行では滑走路に着陸したとみられることもあわせ、再使用型試験宇宙機は有翼機である可能性が高い。

中国はかねてより有翼の宇宙往還機の研究開発を続けてきており、その源流は1964年にまでさかのぼる。このころ、中国の宇宙開発の父と称される銭学森氏が、再使用型の有翼型宇宙船「曙光」の構想を発表。実現することはなかったものの、1980年代にはふたたび有翼型宇宙船の研究が行われた。このころ、米国のスペースシャトルに感化され、ソビエト連邦や欧州、そして日本でも有翼型宇宙船が研究、開発されており、世界の宇宙開発におけるトレンドでもあった。

その後、中国はソ連の「ソユーズ」宇宙船を原型としたカプセル型の宇宙船「神舟」の開発に注力したことから、有翼型宇宙船の研究はいったん下火となるが、2000年代を通じて研究が続き、いくつかの構想や論文が発表。とくに2007年には、「神龍」と呼ばれる小型実験機の存在が確認され、航空機からの滑空飛行試験も行ったようである。こうした歴史を背景に、再使用型試験宇宙機が生み出された可能性がある。

現在、X-37Bのほか、欧州やインドなどでも低コストな宇宙輸送手段を目指し、有翼の宇宙往還機の研究、開発が進んでいる。こうした世界の潮流のなかで、中国はスペースシャトルを実用化させつつあるのかもしれない。

参考文献

http://www.cnsa.gov.cn/n6758823/n6758838/c6840769/content.html
X-37B Orbital Test Vehicle > Air Force > Fact Sheet Display