日本ヒューレット・パッカード(HPE)は8月9日、オンラインでメディア向けの説明会を開き、エッジからクラウド(Edge-to-cloud)にわたりas a service(アズ・ア・サービス)を提供する「HPE GreenLakeプラットフォーム」の新クラウドサービスに加え、新パートナープログラムなどを発表した。

Everything as a serviceを達成したHPE

同社では、4月にHPE GreenLakeプラットフォームにネットワーク管理ソリューションであるAruba Centralを加え、有線、無線、SD-Branchなどのユースケースを網羅する8つの新クラウドサービスを追加し、現在では70超のサービスポートフォリオを備える。

  • HPE GreenLakeプラットフォームの概要

    HPE GreenLakeプラットフォームの概要

今回、紹介された新サービスなどは6月に同社が米国ラスベガスで開催した年次カンファレンス「HPE Discover 2022 Las Vegas」で発表されたものだ。同カンファレンスでは、セキュリティの強化や開発者向けの新しいポータルと開発ツール、大規模なIT資産やワークロードを管理するための機能など、HPE GreenLakeプラットフォームの進化を発表している。

日本ヒューレット・パッカード 常務執行役員 Pointnext事業統括(兼)ストラテジック・アライアンス統括本部長の小川光由氏は「2019年にCEOのアントニオ・ネリが明らかにした、当社製品すべてをサービス(Everything as a service)で提供するという目標はHPE GreenLakeにより、ゴールを達成できたと今回のカンファレンスで宣言された。今後はGreenLakeをさらに進化させていく」と力を込めた。

  • 日本ヒューレット・パッカード 常務執行役員 Pointnext事業統括(兼)ストラテジック・アライアンス統括本部長の小川光由氏

    日本ヒューレット・パッカード 常務執行役員 Pointnext事業統括(兼)ストラテジック・アライアンス統括本部長の小川光由氏

実際、グローバルにおける総契約金額は70億ドル(9100億円、日本で1米ドル=130円換算)にのぼり、プラットフォームを活用する顧客数は6万5000社、販売可能なパートナーは900を超えている。

このように、HPE GreenLakeプラットフォームの需要は、引き続き好調に推移しており、2022年度第2四半期のARR(Annualized Revenue Run-Rate)は8億2900万ドル、アズ・ア・サービスの受注は3四半期連続の3桁増を達成した。

  • 直近のビジネス概況

    直近のビジネス概況

小川氏は、Discover 2022をふまえつつ「今回の発表は新しいクラウドサービス、エコシステムの拡大、プラットフォームの進化の3つがキーとなる」と述べていた。

新しいクラウドサービス群

まずは、新しいクラウドサービスとして「HPE GreenLake for Private Cloud Enterprise」「HPE GreenLake for Data Fabric」「HPE GreenLake for HCI(Hyper Converged Infrastructure)」「HPE GreenLake for Disaster Recovery」「HPE Backup and Recovery Service」「HPE GreenLake for Block Storage」を説明した。

HPE GreenLake for Private Cloud Enterprise

プライベートクラウドの市場は、混在するアプリケーション、制御、コスト、データの重力、データのレイテンシ、予測可能性などの懸念や優先課題などを背景に拡大しており、ハイブリッド/マルチクラウド、またはDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の一環として、プライベートクラウドを採用して刷新に取り組んでいる。

しかし、従来のプライベートクラウドは複雑さや手動によるプロセス、可視性とガバナンスの欠如、組織のニーズに応じてスケールできないことなどが課題になっているという。

その点、HPE GreenLake for Private Cloud Enterpriseは、自動化されたエンタープライズクラスのプライベートクラウドにより、クラウドネイティブなアプリケーションと従来のアプリケーションの両方に対応し、大規模に実行することを可能としている。

小川氏は同サービスについて「パブリッククラウドの使い勝手をプリベートクラウドで可能にするものであり、一貫したクラウド体験を提供するためシングルポータルでさまざまなサービスを提供する」と説く。

また、モジュール形のインフラとソフトウェアが含まれ、ベアメタル、仮想マシン、コンテナワークロードの展開をサポート。インストール、プロビジョニング、ファームウェアアップデート、保守、運用、ハードウェア、成長計画立案の支援、サポートまでのライフサイクル全体をエンタープライズグレードのSLA(サービス品質保証)で提供する。

さらに、データの移動やリファクタリングに関わる労力やコストをかけずにリスクなく、またシンプル、スピーディにクラウドネイティブアプリケーションと従来型アプリケーションの両方を大規模に実行することができるという。

  • 「HPE GreenLake for Private Cloud Enterprise」の概要

    「HPE GreenLake for Private Cloud Enterprise」の概要

提供開始は2023年度第1四半期(2022年11月~2023年1月期)に予定している。

HPE GreenLake for Data Fabric

新サービスとして加わった、ハイブリッド環境向けの分析に対応したデータファブリックを含むマネージドサービスで単一のデータストアを通じた全社データへのアクセスを可能とし、生産性の向上を可能としている。

  • 「HPE GreenLake for Data Fabric」の概要

    「HPE GreenLake for Data Fabric」の概要

HPE GreenLake for HCI

ハイブリッドクラウド環境における仮想マシン(VM)と、インフラ管理を簡便化するSaaS(Software as a Service)ベースのインタフェースによるクラウド運用を実現し、新たにAmazon Web Services(AWS)のVMをサポートしており、ハイブリッドクラウド全体のVMからインフラまで、一元管理が可能。

HPE GreenLake for Disaster Recovery

単一のプラットフォームで無制限のスケールで復旧を実現し、数分で障害発生の数秒前の状態に復旧が可能。定義した目標復旧時点(RPO)および目標復旧時間(RTO)に準じて、ランサムウェア、停電や自然災害からの容易な復旧を可能とし、新たに加わったサービスとなる。

  • 「HPE GreenLake for Disaster Recovery」の概要

    「HPE GreenLake for Disaster Recovery」の概要

HPE Backup and Recovery Service

今回、Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)インスタンスとAmazon Elastic Block Storage(EBS)ボリュームを対象に追加。3つのシンプルなステップで5分以内にVMを保護することができ、バックアップハードウェア、ソフトウェア、クラウドインフラの管理・運用が一元的に行えるため、複雑さを解消することができるという。

HPE GreenLake for Block Storage

100%のデータ可用性を実現した業界初のブロックストレージをアズ・ア・サービスで提供。同サービスには、汎用的なサービス層が含まれ、汎用的なワークロードに対してコストが最適化されたストレージサービスを利用することを可能としている。

  • 「HPE GreenLake for Block Storage」の概要

    「HPE GreenLake for Block Storage」の概要

新しい3つのイノベーション

一方、新サービスとは別に3つの新しいイノベーションとして「Project Edge Cluster」「Project Sustainability Dashboard」「Project Data Map」の3つが紹介された。

Project Edge Clusterは、分散エッジロケーション向け事前定義済の新プラットフォーム、Project Sustainability Dashboardは電力コストを制御してCO2排出量を削減するための可視性を提供。

そして、Project Data Mapは組織内に分散するデータを場所を問わず分析が可能な基盤となる。

  • 「3つの新しいイノベーションのプロジェクトに取り組んでいる

    3つの新しいイノベーションのプロジェクトに取り組んでいる

パートナーエコシステムの拡充と、プラットフォームの進化

続いて、新しいパートナープログラム「HPE Partner Ready Vantage」について触れた。 同プログラムは、既存のHPE Partner Ready Programをベースに設計されたプログラムとなり、両プログラムを並行して運用する。

新プログラムは、パートナーがアズ・ア・サービスビジネスを拡大できるよう強化を図っていることに加え、クラウド事業者などのサービスプロバイダーが新たに参加でき、同社とともにアズ・ア・サービスビジネスを開拓するというものだ。

ビルド(Build)、セールス(Sell)、サービス(Service)の3つのトラックで構成されおり、各トラックにはCenter of Expertise(センターオブエクスパティーズ)を設け、専門知識、技術、技能を強化するためのさまざまなプログラムを展開する。

ビルドではパートナーが自社のソリューションをHPEのソリューションと組み合わせて、アズ・ア・サービスとして提供する活動を重点的に行う。セールストラックはパートナーが同社と協力して開発したソリューションを販売することに重きを置いている。サービストラックは、同社のサービスポートフォリオを活用しつつ、パートナーがコンサルティングやマネージドサービスなどを提供できるようにする活動を軸に置く。

  • 「HPE Partner Ready Vantage」の概要

    「HPE Partner Ready Vantage」の概要

同プログラムの参加要件やメリットなどは、2023年度に順次発表を予定している。

また、80社以上のISV(Independent Software Vendor)にアクセス可能な「HPE GreenLake Marketplace」(提供開始時期は未定)は、HPE GreenLakeプラットフォーム向けに事前にテスト・認定されたソフトウェアをプライベートクラウドにデプロイできる。

Red Hat、SUSEと協業を強化

今回、HPE GreenLakeのパートナーエコシステムにRed Hatが加わり、オンプレミス、パブリッククラウド、プライベートクラウドを問わず、ITの効果的な運用・管理を支援することを明らかにした。

コンテナ管理プラットフォーム「Red Hat OpenShift」、エンタープライズ向けLinuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux」、ITの自動化構築・運用プラットフォーム「Red Hat Ansible Automation Platform」など、同社のオープンソーステクノロジーを組み合わせ、HPE GreenLakeプラットフォーム上に展開するために協力する。

そのほか、HPE GreenLakeプラットフォームの強化に向けて、SUSEの複数のKubernetesクラスターを実行・管理する「SUSE Rancher」、Kubernetesディストリビューション「K3s」、Linuxディストリビューション「SUSE Linux Enterprise」を組み込んだエッジ向けの新プラットフォーム「HPE GreenLake with SUSE」の開発に着手。

分散したエンタープライズエッジのHPE GreenLakeワークロードのデプロイ・管理を簡便化するソリューションの提供に向けて連携する。

  • Red Hat、SUSEと協業を促進している

    Red Hat、SUSEと協業を促進している

HPE GreenLakeプラットフォームの進化

最後にプラットフォームの進化について、日本ヒューレット・パッカード Pointnext事業統括 GreenLakeビジネス開発本部 シニアコンサルタントの寺倉貴浩氏が解説した。

前述のように、HPE GreenLakeプラットフォームは4月に刷新している。寺倉氏は「セルフサービスが可能な直感的なポータルと管理コンソールをエッジからクラウドにまたがり、さまざまな機能を提供している。従来から持つAruba CentralやHPE GreenLake Centralをはじめ、さまざまなポータルを統合したものだ」と説明。

  • 日本ヒューレット・パッカード Pointnext事業統括 GreenLakeビジネス開発本部 シニアコンサルタントの寺倉貴浩氏

    日本ヒューレット・パッカード Pointnext事業統括 GreenLakeビジネス開発本部 シニアコンサルタントの寺倉貴浩氏

今回、同プラットフォームの利用拡大を図るため、開発者向けに情報を共有する「HPE GreenLake Developerポータル」がアナウンスされており、APIなど開発者向けのポータルサイトとしてマニュアルなどを参照できるという。