米Figmaは7月27日、デザインコラボレーションツール「Figma(フィグマ)」とオンラインホワイトボードツール「FigJam(フィグジャム)」の日本語版の提供を発表した。同日からは同社のWebサイトとツールの使い方を説明したヘルプセンターの日本語版も公開している。
同日には記者発表会がリアルとオンラインのハイブリッドで開催され、サービスの特徴や日本での今後の事業展開が発表された。
楽天やYahoo! Japan、LINE、富士通など国内企業が導入
Figmaは、Webブラウザ上で複数のメンバーがデザインの共同編集を行えるツールだ。日本ではフリーのデザイナーやエンジニア、PdM(プロダクトマネージャー)などが利用するほか、楽天やYahoo! Japan、LINE、富士通などの大企業でも導入され始めている。
「Google ドキュメント」のように、FigmaではWebブラウザ上で作業を完結することができるうえ、編集スペースに紐づいたURLを発行することで他のユーザーを編集作業に参加させたり、他部署と成果物を共有したりできる。
FigJamは、2022年2月から提供開始したホワイトボードツールだ。Figmaと同様にWebブラウザ上で動作し、URLで作業スペースの共有・共同編集ができる。会議の議事録やプレゼンテーション資料を作成したり、ブレインストーミングに用いたりとさまざまな使い方が可能だ。
両ツールを利用するにあたって専用のソフトウェアをインストールする必要はないため、OSやプラットフォームのバージョンを気にせずにデザイン作業を行えるという。また、ファイルのやりとりが発生しないため、ユーザーは常に最新の作業内容にアクセスできる。
現在、日常生活の大部分がオンラインに移行し、デジタル画面が世界との交流手段になっている。結果としてデザインが企業の今後を決める重要な要因になると、多くの企業が気付き、デザインにリソースを投入し始めている。
実際に、Figmaを導入している富士通では、2020年7月に富士通デザインセンターを設立し、デザイン経営推進を謳っている。
Figma 共同創業者でCEO(最高経営責任者)であるディラン・フィールド氏は、「日本にローカライズした製品を提供することで、日本における『デザイン経営』へのシフトを加速させ、『すべての人がデザインにアクセスできるようにする』という私たちのビジョンを実現したい。そして、日本のデザインコミュニティやユーザーを支援し、日本のDXの強化にもつなげたい」と語った。
デザイン作業者向けに無償プランや、3つの有償プランを提供
Figma、Figjamともに基本機能を無料で利用できる「スターター」プランのほか、有償の「プロフェッショナル」「オーガニゼーション」「エンタープライズ」プランが用意されている。
なお、Figmaでは、デザイン作業を行う「編集者(エディター)」に月額費用が発生するが、共有されたURLでデザイン案を閲覧するだけの「閲覧者(ビューワー)」は無料で同ツールを利用できる。閲覧者はデザインの閲覧、コメント付与とメンションが行える。
両サービスの有償プランは、年間払いと毎月払いで月当たりの費用が異なる(年間払いにすると月当たりの費用がディスカウントされる)。「エンタープライズ」プランは年間契約のみで、Figmaは月あたり75ドル、Figjamは月あたり5ドルとなる。
日本法人であるFigma Japanでは、現在10人のスタッフでマーケティング、販売、サポートなどを実施している。2022年末までには20人に増員し、既存顧客向けのプロダクトサポートの充実や新規顧客の獲得、デザイナーや開発者、マーケターなどのコミュニティの長期育成などを推進するという。また現在、米ドル表記の料金体系の円表記への変更や、セールスパートナーとの協業も順次進めていくという。
Figma Japan カントリーマネージャーの川延浩彰氏は、「デジタルやDXには経済効果が見込めるが、ただアプリやサイトを作ればいいというものではない。そこには優れたデザインが必要だ。日本語版により、日本のユーザーがコラボレーションをしやすくなる環境を整えたい。日本でのビジネス浸透に向けた取り組みも徐々に進めていく」と述べた。
川延氏に企業におけるFigma導入の流れについて尋ねたところ、「企業のデザインに関わっている人材がすでに利用していて、社内のコラボレーションを通じて組織内で広がりを見せる傾向が強い」と答えてくれた。
例えば、デザインチームがデザイン案を制作し、エンジニアやマーケティング担当者などにプロトタイプのチェックを依頼する中でFigmaの認知が進んで採用される、といったケースは珍しくないという。
共通要素をコンポーネント化、修正を一括で反映できる
説明会では、Figmaのプロダクトチームを統括しているCPO(最高製品責任者)の山下祐樹氏が、ニュースアプリのインターフェースデザインを例にFigmaの代表的な機能を紹介した。
「テキストの編集、レイアウトの調整、アイコンの作成や編集など、AdobeのIllustratorやPhotoshopで行える作業はFigmaでも簡単に行える。プロトタイプモードでは、制作したデザインをユーザーの視点でチェックすることが可能で、アプリのページの移り変わりやアニメーションの起動なども試せる」と山下氏。
プロトタイプにコメントを残すことも可能で、コメントを基にデザインに修正を加えれば、プロトタイプにもリアルタイムに修正が反映される。
また、コーディングのための数値やコードをコピーできる「インスペクトモード」も備えている。デザイナーはインスペクトモードでWeb用のコードやiOSやAndroid用のコードを抽出し、エンジニアに連携することでコーディングを効率化できる。
このほか、Figmaでは共通要素をコンポーネント化することで、デザイン制作の手作業を減らすことも可能だ。
フッターやメニューアイコンなど、アプリやWebページの共通デザインに急な変更が発生してしまった場合、大抵は新しいデザインを作成し、各ページに貼り付けていくことになる。
Figmaでは、例えば、メニューアイコンをコンポーネント化しておき、そのコンポーネントを修正することで各ページに配置したメニューにも同じ修正を一括で反映させることができる。
コンポーネントはデフォルトで用意されたもののほか、Figmaのユーザーが作成したものも利用できる。ユーザーが作成したコンポーネントは、Figma内のコミュニティサイトにオープンソースで公開されている。
公式グッズサイト「Figma Store」もオープン
「Web上で共同編集できる」というプロダクトの特徴とは別に、経営陣がFigmaの特徴として挙げるのがユーザーコミュニティの存在だ。
Figma CCO(最高顧客責任者)のアマンダ・クレハ氏は、「Figmaが特別な存在でいられるのは情熱とクリエイティビティのあるユーザーと、彼らによるコミュニティのおかげだ。現に日本のユーザーもミートアップを開催したり、ユーザー向けのチュートリアルを自主的に作成したりと活発な活動をしてくれている。先日は日本のユーザーがFigmaの使い方を解説した本を自主的に執筆し出版した」と紹介した。
オフィシャルな日本語版が提供される前は、日本のFigmaユーザーが日本語プラグインを開発して、同じユーザー向けに無料で公開していた。
そうした、Figmaユーザーから人気のある、Figmaの公式グッズストア「Figma Store」の日本版も同日にオープンした。これまでは米国と英国のみで同サイトを利用できたが、日本からもショッピングが可能となった。
「当社では年次カンファレンス『Config』のほか、参加できないユーザーが居住地でカンファレンスを視聴するイベント『Config Watch Party』も開催している。Figmaユーザーの8割以上は米国外の在住者であり、だからこそ、当社のカンファレンスもグローバルなイベントになっている。コミュニティは、今後も当社におけるグローバル戦略の中心的な存在となる」(クレハ氏)