持続可能な資源とは生物資源に他ならない地球上において、私達の実生活に目を向けると、少しずつではあるが、化石資源社会に生物材料が介在し始めているような気がする。ウッドストロー、ナノペーパー半導体、ペーパーカップなど、もちろんすべての化石資源が代替されることは現段階においてありえないものの、その足音は着実に近づいてきている。
16世紀、イギリスが石炭という万能の鉱物を採掘し、産業革命によって世界を席巻した後、1859年にアメリカで石油が発見されてからというもの、1960年代ころには石油が資源の中心に君臨した。
よくよく考えれば、石油の発見から100年余りで一般化し、市販のジュースよりも安価にもかかわらず、飛行機を飛ばす燃料となったのだ。人に翼を授けるエナジードリンクなど優に越えた本物の魔法の水といっても過言ではなかろう。
しかし、その発展には大きな代償が伴った。2014年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によると、CO2の排出量と地球温暖化は比例関係にあると喝破した。人類が初めて地球の逆鱗に触れていたことに気づいたのだ。まさに人類の身から出た錆、すなわち温暖化という熱を帯びた悪魔が、いつしか私達の喉元に鎌を突き立てているのだ。
だから、私達はその悪魔を成仏させるためにも、学ばなければならないのだ。学びは武器となり盾となる。読者諸君にはそういった想いで読み進めて欲しい。私達はたしかに行き過ぎた発展を遂げたものの、環境問題に向き合い、少しずつ歩みを進めているのだ。
今回紹介する研究は、デンプンを原料としたアスファルト改質剤※1を開発したというものだ。デンプンは米やとうもろこしなどに豊富に含まれる物質であるうえ、植物がデンプンを蓄えるサイクルが短いことから優れた再生可能資源でもある。
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、デンプンを原料としたアスファルト改質剤「C-AG」を開発した。C-AGはアスファルト中で繊維状に分散し、アスファルトの耐流動性※2を向上させ、道路寿命を長くする効果を発揮するという。さらに従来のアスファルト改質剤と比べ、改質アスファルト製造や道路施工に関連するエネルギー消費量が低く、温室効果ガスの排出量抑制が期待できるとした。
日本の舗装道路は主にアスファルト舗装である。アスファルトは温度の上昇とともに柔らかくなる特性があり、真夏の路面温度である60℃に達すると流動性を示す。これによって、真夏に道路を多くの車が走行すると、わだち掘れと呼ばれる凹凸ができ、道路が傷んでしまうことがあるのだ。
そこで、真夏でもアスファルトの硬さを保ち、わだち掘れを抑制するため、アスファルトに石油系ポリマーを加えたポリマー改質アスファルトが利用されている。しかし、このポリマー改質アスファルトは、製造から道路施工の工程でエネルギーコストが高く、CO2を含む多量の温室効果ガスを排出する。
つまり、アスファルトの粘弾性を改善しつつ、製造・施工で高温条件が必要ないアスファルト改質剤の開発が求められていたのだ。これまで、農研機構はデンプンから得られる1,5-アンヒドログルシトールと脂肪酸を原料としたゲル化剤※3C-AGを開発してきた。
このゲル化剤は多種類の有機溶媒に容易に溶け、溶液の粘度を増したり固化したりすることができる。そして、このゲル化剤の用途開発を進めていく中で、アスファルトにも簡単に溶け、分散することが明らかとなり、アスファルト改質剤として利用できる可能性を見出した。
そこで、C-AG改質アスファルトの観察および耐流動性評価を行い、その可能性について模索した。その結果、C-AG改質アスファルトには繊維状の構造体がアスファルト中に分散していること、そしてC-AG改質アスファルトは無添加アスファルトよりも耐流動性が向上していることが明らかとなった。
農研機構はこの結果から、普通のアスファルトに比べて耐流動性が向上したC-AG改質アスファルトを道路舗装に利用すると、道路が丈夫になり真夏でもわだち掘れができにくくなるため、道路の長寿命化に貢献できるものと考えられた。
また、製造過程での温室効果ガスの排出も削減できるだけでなく、夏期の路面温度下でもわだち掘れができにくくなるため、道路塗装に関わる作業者の作業改善にも寄与できる。
さらに、この改質剤は食用に向かない粗でんぷんを原料にできるため、廃棄でんぷんの削減や資源の有効活用にも役立つとし、研究チームは今後もアスファルト改質剤C-AGの開発を進めていくとした。
文中注釈
※1:アスファルトの粘弾性状や温度特性などの物性を向上させるため、アスファルトに混ぜて使われる物質のこと
※2:流動しにくくなる性質
※3:溶液を固化する物質。例えば、ゼラチンは水を固める働きをするゲル化剤である