米ワシントン州シアトルにある現代アートセンター「Museum of Museums (MoM)」が10月開催を予定していた「Amazon vs Microsoft」展の中止を発表した。AmazonとMicrosoftの現役従業員のアート作品を集めた展覧会になる予定だったが、開催に対してシアトル地域のアーティスト・コミュニティから強い批判の声が上がった。

  • Museum of Museums

    Museum of Museums (MoM)

テック企業にはアーティストとして活躍する従業員が多数在籍している。例えば、Windows Vistaの起動音に関わったMicrosoft社員のスティーブ・ボール氏(Principal Program Manager Lead)は、キング・クリムゾンのリーダーであるロバート・フリップ氏の「ギタークラフト」に約30年参加し、その後Tiny Orchestral Momentsという国際的なミュージシャン・コミュニティを主宰している。

AmazonとMicrosoftはシアトル地域を代表するテック企業であり、世界の時価総額ランキングでトップ5に入る。MoMは7月15日に「Amazon vs Microsoft」展を発表、展示参加を希望するAmazonとMicrosoftの従業員の作品の募集を開始した。どちらかの企業の従業員であれば、どの国で働いていても、エグゼクティブでも、荷物の配達員でも誰でも応募できる。作品や表現の種類も問わない。テック企業で働くアーティストに焦点をあて、作品を通じてテック企業とアートの関係性の議論を掘り起こそうとしていた。

その発表に、すぐに地元アーティスト達が反応した。

シアトルと周辺地域はMicrosoftとAmazonの成長によって、全米で上位にランクされるぐらいに生活費が上昇している。アーティストの活動にかかる費用も上昇しており、経済的な理由から地元を離れるアーティストが珍しくない。そのため、テック企業がアーティスト・コミュニティの衰退や分断を起こしていると考える地元アーティストが少なからずいる。「Amazon vs Microsoft」に対する批判の内容は様々だが、そのテーマではテック企業で働かないアーティストにテック企業がもたらす影響も重要であるにも関わらず、一面的な展示であることを危ぶむ声が多い。AmazonまたはMicrosoftに雇用されている従業員の作品に限定した展示は、テック企業の価値にスポットライトをあてることになる。

  • 「Amazon vs Microsoft」展中止の告知

    「Amazon vs Microsoft」展中止の告知(museumofmuseums.comから)、イラストはジェド・ダンカリー(Jed Dunkerley)氏

そうした反応に対して、MoMのディレクターであるグレッグ・ラングレン氏は「アートで最も強いエコシステムは、最も包括的なものであると私は信じています。それにはテック企業の人々も含まれます。貧しい人々、豊かな人々、共通の理想を持つ人々、奇妙な考えを持つ人々。みんなです」とMoMの展覧会の主旨を説明。シアトル地域の文化的な未来を見通すために、アートと富について考える必要性を主張した。シアトル地域を故郷とするアーティスト、シアトル地域での活動を希望するアーティストがシアトル地域を拠点とするために、テック企業はローカルアートを支える強力な経済エンジンになり得る。

その一方で「ビッグテックを将来の健全性と活力の引き受け手と見なすべきではない」という批判の広がりに、展覧会の背景、開催決定までの経緯や動機などについて事前の説明や議論が明らかに足りなかったことを認め、見直しではなく「Amazon vs Microsoft」の完全中止を決定。開催発表の展示に作品を提供したアーティストなど、騒動の影響を受けた全ての人に謝罪した。