コロナ禍はさまざまなビジネスに大きな影響を与えた。特に打撃を受けたのは飲食店や観光業、旅行業などだが、当然のことながらそれらの業界に関連するビジネスも影響は避けられなかった。

その1つが、海外用Wi-Fiルーターのレンタルサービス「イモトのWiFi」を提供するエクスコムグローバルだ。今は、PCR検査事業をはじめとした新たな取り組みによって業績は回復、むしろ成長しているものの、一時期は売上が最大98%減になるほどの“どん底”を味わったという。

なぜ同社は、存続の危機とも言えるほどの状況に陥りながらも踏み留まり、復活を遂げることができたのか。その要となったのは、同社を率いる代表取締役社長 西村誠司氏の卓越したマーケティング戦略だ。

5月19日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+フォーラム Marketing Day 2022 May.デジタル変革の潮流を見極めるマーケティング経営」に、この西村氏が登壇。コロナ禍の経験を交え、未曾有の危機を乗り越える際、基本となる考え方について語った。

  • エクスコムグローバル 代表取締役社長の西村誠司氏

コロナ禍でイモトのWiFiの売上が98%減に

エクスコムグローバルは、海外用ポケットサイズWi-Fiルーターのレンタルサービス「イモトのWiFi」や、美容内科・美容皮膚科の「にしたんクリニック」などを運営する企業だ。順調に成長を続けていた同社だったが、「危機は思わぬタイミングでやってきた」と西村氏は話す。

「原因となったのは2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大です。同年2月頃までは、そこまでの影響はないと思っていました。しかし、3月になると売上は前年比5割減になり、4月には緊急事態宣言が発令されたことで売上が前年比98%減まで落ち込みました。倒産してもおかしくない状況だったと言えます」(西村氏)

イモトのWiFiは海外用なので、海外に行く人が減少すれば当然、売上は下がる。2019年からスタートしたクリニック事業があるとはいえ、事業の柱となるイモトのWiFiの売上を失ったエクスコムグローバルは大きな岐路に立たされた。

それから2年。

現在、エクスコムグローバルは倒産することなく、それどころか順調に事業を拡大している。2020年に始まったコロナ禍から現在までの間に何があったのか。

「当初は夏になればウイルスが収まるのではと思っていました。しかし、梅雨入りしても一向に良くなる気配がない。これはもう、イモトのWiFiの延長線上で事業を考えてはダメだと思いました」(西村氏)

そこで西村氏は、発想を大胆に切り替えた。

確かに、コロナ禍は世界を大きく変え、ビジネスにも影響を与えた。しかし、全てが悪くなるとは言えないはずだ。コロナ禍で海外Wi-Fi事業が難しくなった一方で、コロナ禍が追い風になるようなビジネスもあるはずだと考えたのだ。

ヒントになったのは、周囲から聞こえてきた声だった。

「当社は2019年からにしたんクリニックを展開しています。それもあってか、いろいろな人から『PCR検査を受けられる場所を知りませんか』という相談が入ってきていたのです」(西村氏)

2020年当時、PCR検査を受けられる場所はまだまだ不足していた。そんな状況を見た西村氏は「これだ」と確信した。

「7月にはPCR検査を事業として行うことを決断しました。もしかしたら、PCR検査の需要は半年くらいしか続かないかもしれない。だから、可能な限り早く事業をスタートさせようと思いました」(西村氏)

もっとも、PCR検査事業を開始するのは簡単ではなかった。テナントオーナーや同じビルのテナント企業が嫌がり、PCR検査を行うための場所を借りることすら難しい状況が続いた。検査の機械も世界中で取り合いになっており、仕入れが難しかった。検査を行える臨床検査技師も不足しており、なかなか採用できなかったという。

それでも、西村氏は迷わなかった。「3歩進んで2歩下がるような状態」だったが、立ちはだかる困難に一つ一つ対処し、8月24日にはPCR検査事業をスタートさせたのである。