東京大学(東大)は6月3日、これまで数件しか報告されていなかった、新しいカイラル(キラル)有機強誘電体を発見したことを発表した。

同成果は、東大 物性研究所(物性研)の野村肇宏助教、小濱芳允准教授、東大 新領域創科学研究科の研究者も参加した研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会が刊行する欧文学術誌「Journal of the Physical Society of Japan」に掲載された。

カイラルとは、2つの分子があったとして、どちらも構成する原子の種類や数は同じだが、つながり方が異なるため、左手と右手のように基本的に似た形状だが、その立体構造がもう1つの分子の鏡像と重ね合わせられない関係のことをいう。

今回研究対象となったのは、分子性結晶「BINOL・2DMS」で、カイラル分子「BINOL」(1,1’-bi-2-naphthol)からなるフレーム中に、極性分子「DMSO」(dimethyl sulfoxide)がゲストとして取り込まれた結晶構造を有する分子性結晶とされている。絶対温度190K(約-83℃)でゲスト分子の配向自由度が秩序し、結晶の対称性が破れることで強誘電転移が起きるというものだという。

今回の発見は、カイラルかつ有機物の強誘電体はこれまで数件しか発見されていない中で新たなカイラル有機強誘電体となった。有機強誘電体やカイラル結晶は、近年広く興味を集めており、今回の物質も新たな誘電物性研究の舞台として進展が期待されると研究チームでは説明している。

  • BINOL・2DMSOの結晶構造

    BINOL・2DMSOの(a)結晶構造。(b)同物質の単結晶の画像。(c)分極と焦電流の温度依存性 (出所:東大 物性研Webサイト)