筆者は小学生のころ、「ともだち100人できるかな?」の歌詞で知られる「1年生になったら」を合唱しながら、多くの友達をつくりたいと思っていた。多くの人と関わりをもち、楽しく生きていきたいと胸を踊らせるかわいい少年だったのだ。

それは、昆虫や魚といった人(Homo sapiens)以外との関わりも含んでいた。筆者の生まれは俗に言う“田舎”、あるいは“ド田舎”に分類される自然豊かな町で、幼いころの遊びはもっぱら昆虫採りや魚釣りであった。

そのため、友達(関わりをもつ生き物)の概念はある種の多様性を孕んでおり、当時はさまざまな生物とつながっている感覚さえあった。自然豊かであるがゆえ多くの生物と直接的に関わることができたのだ。今思えば、これこそまさに「生物多様性」と呼ばれる種を越えた生物の命のつながりの環であったように思える。

さて、筆者が生粋の田舎者であることはさておき、今回紹介する研究は生物多様性に関連した内容である。総合地球環境学研究所(地球研)を中心とした日本・台湾・フィリピンの国際共同研究グループは、琵琶湖の最大流入河川である野洲川を対象とした大規模な生物多様性観測調査を実施し、灌漑期に水田から排出される濁水に含まれる懸濁態リン※1が河川の底生動物の多様性を低下させる主な要因であることを明らかにした。

詳細は、学術雑誌「ECOSPHERE」に掲載されている。

現在、生物多様性の減少は地球規模で急速に進行している。特に、人間活動の影響を受けやすい河川や湖沼などの淡水生態系は、生物多様性の減少が著しい生態系の1つだ。

また、水田には湿地生物の生物多様性が育まれることが知られている。しかし、田圃・灌漑整備・農薬・化学肥料の使用による近代化により、その排水の量や性質が変化していることから、河川の生物多様性を懸念する声があがっている。

特に、琵琶湖流域は問題視されていたが、その全貌は明らかになっていなかった。そこで研究チームは、野洲川流域の社会・経済活動の基盤をなす土地利用が、底生動物の多様性におよぼす影響について調査した。

研究チームは、野洲川流域の森林・都市(主に宅地・工業用地)・農地(主に水田)のそれぞれの河川環境と生物多様性の相互関係について調査した。

  • 今回の研究の概要。野洲川の30箇所に観測定点を設けて生物多様性観測を行い、生物多様性が土地利用から受ける影響を解析した

    今回の研究の概要。野洲川の30箇所に観測定点を設けて生物多様性観測を行い、生物多様性が土地利用から受ける影響を解析した(出典:総合地球環境学研究所)

その結果、森林は河川水温の変化を介して生物多様性を変化させることが明らかとなった。また、都市はリン酸・硝酸濃度の上昇および河床藻類のクロロフィル濃度の上昇を介して生物多様性を低下させる効果が非灌漑期のみ検出された。しかし、河川の富栄養化による生物多様性の低下は限定的であった。これは、野洲川流域の下水道インフラが整備されているためと考えられた。

  • 流域の各種土地利用が河川生態系の物理・化学・生物環境の改変を介して底生動物の多様性(種数)に及ぼす影響を表した相関図(灌漑期の解析結果の一例を示す

    流域の各種土地利用が河川生態系の物理・化学・生物環境の改変を介して底生動物の多様性(種数)におよぼす影響を表した相関図(灌漑期の解析結果の一例を示す(出典:総合地球環境学研究所)

一方、農地では灌漑期に懸濁態リンの増加を介して底生動物の種数や多様度指数※2を顕著に低下させ、河川の生物多様性低下の主要因であることが明らかとなった。

同研究は、問題視されていた琵琶湖流域での排水が生物多様性に与える影響を科学的に評価することができた。しかし、同研究結果は、必ずしも水田自体が生物多様性低下の原因であることを意味しない。実際、琵琶湖流域の水田面積は年々減少しているにもかかわらず、底生動物の多様性は長期的には低下傾向を示している。

これは、1972年に始まった琵琶湖総合開発事業により、生産効率が向上した一方、水田からの濁水発生量が増加した。それに伴って懸濁態リンの排出量も増加し、生物多様性の低下という負の側面をもたらしたと考えられる。

研究グループが行った先行研究では、冬も水田に水を張っておく農法(冬水田んぼ)を実践することにより、代掻き時に水田から排出されるリンを抑制する効果があることを報告している。このような環境配慮型農業の活動の輪が流域全体に広がれば、河川の生物多様性が回復すると期待される。すなわち、そのような農業を支援する政策や社会協同の仕組みづくりが有効であることが示唆されたのだ。

今回取り上げた、生物多様性はSDGsの目標15の「陸の豊かさを守ろう」に関連している。この地球上で自分一人、ただ一種だけで生きながらえることは不可能であり、すべての生物が直接的・間接的につながっている。この途方も無い生命の環を持続させていくためには、生物多様性の保全はマストであり、読者諸君も情報を集める必要があると筆者は考える。

次世代の経済・社会と生物多様性の政策統合に向けた戦略も、今後活況を呈していくことだろう。本記事が、そういった政策に関心を寄せる一助になれば幸いである。

文中注釈

※1:水に溶けず微細な粒子として浮遊しているリン
※2:生物多様性の評価に用いられる指数。「種の豊富さ」と「均等度」の両方を表すもので、観察された生物種の総個体数やそれぞれの種の個体数などを用いて算出される