2021年12月16日、インターネット上に“新たな大阪”が生まれた。都市連動型メタバース「バーチャル大阪」だ。2025年に開催される大阪・関西万博も視野に入れた大阪府・大阪市の取り組みは、都市とメタバースの新しい在り方を見せている。

今回、編集部ではバーチャル大阪の制作・運営を行うKDDI共同企業体のメンバーであるKDDI 5G・xRサービス戦略部 浅井利暁氏、同 事業創造本部ビジネス開発部 川本大功氏への取材の機会を得た。本稿では、バーチャル大阪オープンまでの道のりや、都市連動型メタバースが描く未来についてレポートする。

  • KDDI 5G・xRサービス戦略部 浅井利暁氏

  • KDDI 事業創造本部ビジネス開発部 川本大功氏

都市体験を拡張する「バーチャルシティ構想」とは?

バーチャル大阪について語るにはまず、その制作・運営を行うKDDI共同企業体の一社であるKDDIの取り組みを知っておく必要がある。

KDDIは2019年9月、渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会と共に「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」を立ち上げた。その少し前から社内では、今後整備され、発展するであろう5Gに関連する新しいプロジェクトチームが組成されていたこともあり、「『テクノロジーの力を使って、熱量の高い場所の体験を拡張していく』ということを意図して取り組みを始めました」と、川本氏は当時を振り返る。

“創造文化都市”を目指す渋谷区観光協会と渋谷未来デザインと3社で戦略的パートナーシップを結び、プロジェクトを立ち上げた2019年以降、いくつもの実証実験を実施し、AR/MR技術を使った都市体験の拡張を進めていった。中でも注目を集めたのが、渋谷の街を訪れ専用アプリを搭載したスマートフォンをかざすと、飲食店情報や気象情報を見ることができたり、まるで渋谷の街を魚が泳いでいるようなグラフィックが出現したりするDXの実証実験だ。AR技術によって実現した「現実の渋谷」と「バーチャルな渋谷」の融合は、これからの都市の新しい姿を予感させる取り組みとなった。

ところが都市をジャックする大型プロモーションを本格的に始動しようとしていたその矢先、2020年春に新型コロナウイルスが流行。外出自粛が求められるようになり、実際に渋谷の街に訪れる人を主なターゲットとしていた取り組みは大きな路線変更に迫られることとなった。

「ショックだったのは、スクランブル交差点の位置付けが変わってしまったことでした。これまでは人が集まる熱量の高い場所の象徴だった交差点が、外出自粛期間には“人が外出していないことを確かめる”中継場所になってしまったのです」(川本氏)

現実の渋谷に人が集まることが難しくなったことで、人々の中にある渋谷そのもののイメージが変わってしまうことを危惧したプロジェクトメンバーは、自粛中であっても渋谷らしいものを届けたいという思いから発想を転換し、構想からわずか2カ月後の2020年5月、都市連動型メタバース「バーチャル渋谷」を立ち上げた。

「かねてより、社としても先端技術を有する様々なベンチャー企業の皆様と、新しい体験価値を共創していくことを掲げており、オープンイノベーションに積極的だったことがうまく働きました」と、浅井氏は言う。

このようにKDDIは地方自治体とのプロジェクトや、AR/VR技術に関連する取り組みの実績を着実に積み上げてきた。そこで満を持して、次に取り組んだのが「バーチャル大阪」である。