5月11日から13日まで、東京ビッグサイト南展示棟(東京都 江東区)において、最新のテクノロジーに関するイベント「NexTech Week2022【春】」が開催中だ。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するさまざまなテクノロジーが集結しており、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やブロックチェーンなどの最新技術に加えて、デジタル人材の育成を支援するためのソリューションなどを体感できる。

同イベントでは、各テーマに沿ったセミナーも開催される。ブロックチェーンやNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)のビジネス応用、AIを知るための基礎講座、企業におけるリスキリング、量子コンピューティングの国家戦略など、どれも魅力的だ。

本稿では11日に開催されたセミナーの中から、「Society5.0へ向けたデジタル人材育成」と題して語られたパネルディスカッションの様子をお届けしたい。登壇者は日本ディープラーニング協会(JDLA)理事長であり東京大学大学院工学系研究科教授の松尾豊氏、情報処理推進機構(IPA)理事長の富田達夫氏、データサイエンティスト協会(DSS)代表理事の草野隆史氏の3名。デジタルリテラシー協議会の小泉誠氏がモデレーターを務めた。

  • パネルディスカッションの様子

なぜ私たちはデジタルリテラシーが必要なのか?

デジタルリテラシー協議会は、JDLA、DSS、IPAによって2021年に設立された。同協議会では、デジタル技術にアクセスして目的のために適切に使う能力をデジタルリテラシーと定義し、IT、データサイエンス、AIの3方面からデジタルリテラシーの向上を支援する。同協議会はDXの推進のためにはデジタルリテラシーが必要と提言しているが、なぜ、現代にデジタルリテラシーが必要だと考えられるのだろうか。

IPAの富田氏は「かつて『読み・書き・そろばん』が人間が生きていくために必要な技能だとされていたのはご存知の通りだが、デジタルリテラシーはこれからの時代の『読み・書き・そろばん』に相当する基礎知識になるはず。あらゆる産業がデジタル技術に支えられる時代に存続するには、あらゆる人がデジタルリテラシーを学ぶ必要があるだろう」と語った。

また、「自分にはデジタル技術が関係ないと思う人もいるだろうが、フードデリバリーサービスや、給与の支払い、出退勤の管理にもデジタルツールは使われている。まずは身の回りにあるデジタル技術を実感してほしい。デジタル技術に使われるのではなくデジタル技術を使う人材になるためにも、現代を生きる全員にとってデジタルリテラシーは必要」と、富田氏は補足した。

  • 富田達夫氏

JDLAの松尾氏は「近年のグローバル規模の産業の発展を見ると、デジタル技術を活用した競争力によって企業間の勝敗が決まる例が顕著になってきている。サービスの開発・ユーザーへの提供を迅速に進めるためにもデジタルリテラシーが必要になる。プログラミング言語を扱う力はもちろんのこと、AIを使ってビジネスをデザインする力もデジタルリテラシーの一つの要素だろう」と続けた。

  • 松尾豊氏

松尾氏が語るDX人材に必要な3つの力とは?

上述の通り、デジタルリテラシー協議会はIT、データサイエンス、AIの三要素をデジタルリテラシーと捉え、各分野の知識獲得を推奨している。同協会はなぜ、この三要素を重視するのだろうか。

DSSの草野氏は「デジタルリテラシーを身に付ける際の一歩目として、IT、データサイエンス、AIはデジタル知識の全体像を知るための見取り図のような位置付けである。電車に乗る際に路線図がないと目的地に向かえないように、まずは身の回りのIT機器がどのような原理で動いているのかから学び始めるのが良いだろう。ネットワーク上でサーバとクライアントがどのように連携しているのかなどを理解することから始めてほしい」と話した。

また、AIとは万能な技術ではなく、何ができて何ができないのかを知ることも重要なのだという。ビジネスを推進する上でどのようにデータを収集し、どのように分析し、どのように付加価値を与えるのかを考えるための一歩目となるのがデジタルリテラシーとのことだ。

  • 草野隆史氏

富田氏は「デジタルリテラシーは全員に身に付けてほしいが、一方で、デジタルリテラシーの獲得だけでは不十分だと感じている。『読み・書き・そろばん』の水準で全員がデジタルリテラシーを身に付けたからと言って、必ずしもビジネスの変革が生まれるわけではないなので、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進できるような人材を育成するための議論も今後は必要」だと述べていた。

松尾氏はDX人材を構成する能力として「PDCA(Plan Do Check Act)サイクルを回す力」「WebやITシステムを理解する力」「目的志向」の3点を紹介した。適切な目的を設定し、目的を達成するために実施すべき事柄を取捨選択して不要な作業を捨てられる力が必要なのだそうだ。

同氏は「この3つの能力を身に付けた人はおそらくどこに行っても活躍できるだろう」とも話していた。

  • 750席ほどの会場は満席となり、立ち見が出るほどの盛況を見せた