日本の製造業界はコロナ禍で大きな影響を受けた。ただし、それはマイナスの影響だけではない。業績が落ち込んだ企業がある一方で、業績を伸ばした企業もあるのだ。両者を分けたのは何だったのだろうか。
3月15日に開催された「TECH+フォーラム 製造業 DX Day 2022 Mar.事業革新のプロセス」に、アペルザ 代表取締役社長 兼 CEOの石原誠氏が登壇。製造業のDXを支援してきた同社だからこそ分かる、製造業界の営業課題と課題を解消するためのDXについて語った。
生き残りのカギは「変化に対応できるかどうか」
2016年に創業したアペルザは、製造業におけるセールスマーケティングのDXを推進しているスタートアップ・ベンチャーだ。製造業向けに、営業・販促支援のクラウドサービス「アペルザクラウド」を提供する他、メディア広告事業である「アペルザカタログ」や「アペルザTV」なども展開する。同社のプラットフォームは77,000社超が利用しており、月間利用者数は45万人に上るという。
製造業の営業活動を真近で見つめ続けてきた同社が、今最も感じている変化はやはりコロナ禍による影響だ。石原氏によると、新型コロナウイルス流行の影響により、営業担当者の72%が「顧客接点が減った」と感じているという。
興味深いのは、コロナ禍で業績が上がった企業と、業績が落ち込んだ企業では実感している変化に違いがあることだ。前者の場合、「業務量が逼迫している」と回答した割合が多く、後者の場合は「競合企業との競争環境が激化した」と回答した割合が多くなっている。
また、課題解決への取り組みを行っている企業ほど「コロナ禍で業績が向上した」と回答しており、端的に言えば「変化に対応できているかどうか」がコロナ禍における企業の命運を分けていると言える。
石原氏はダーウィン進化論を例に挙げ、「生き残るのは最も強いものではなく、変化に適応したものである」と話す。
では、変化に適応し、コロナ禍を乗り越えて生き残るにはどうすればいいのか。石原氏が提案するのが、ITツールの活用によるDXの推進である。
売り手と買い手で異なるオンライン体験値
コロナ禍ではさまざまなITツールの活用が進んだ。中でも圧倒的に利用率が増したのが、ZoomやTeamsといったWeb会議ツールだ。それ以外にも名刺管理やマーケティングオートメーションツール、ビジネス・インテリジェンスツールなどが浸透し、営業現場は大きく様変わりしているという。
変化したのはツールだけではなく、現場の意識もだ。
石原氏によると、コロナ禍以前となる2019年段階ではまだまだオンライン営業は普及しておらず、営業担当者にアンケート調査を行っても、「顔を見ない商談には誠意を感じない」「営業担当者の顔を見ると安心感がある」と回答した割合が圧倒的に多かったという。当時はまだ、リモートでの営業活動が社会的に受け入れられていなかったのだ。
ただし、この調査結果にはからくりがある。
「2019年の段階から、売り手と買い手では異なる傾向が見られました。実は、『オンライン商談ではなく、訪問営業の方がいい』と回答したのは売り手側に多く、買い手側の方はむしろ『リモートでもいい』と考えている人が多かったのです」(石原氏)
調査からは、買い手はリモートを受け入れているのに、売り手側が勝手に「訪問の方がいいはずだ」と決めつけている現状が見て取れる。
この結果を意外に思うかもしれないが、「プライベートに目を向けてみれば理解できること」だと石原氏は言う。
私たちはプライベートではオンラインを使いこなし、ネットで買い物をするのも当たり前になっている。オンライン体験は年々充実しており、当たり前のようにサービスを享受している。オンラインに抵抗感を持っている人はもはやほとんどいないと言ってもいいだろう。
しかし、注意すべきはそれらがあくまでも「消費者(買い手)の立場での体験」に終始している点である。つまり、私たちの多くは「売り手」としてのオンライン体験をほとんど持っていないのだ。
このギャップが、「買い手の立場ではオンライン体験を受け入れるのに、売り手の立場になると急に『対面の方が良いはず』だと思い込む」という現象を招いていると言える。売り手と買い手における温度差こそが、製造業界に存在する課題なのだ。