東京大学(東大)は4月5日、猫に非常に多い「下部尿路疾患」のうち、半数以上を占める原因不明の「特発性膀胱炎」のバイオマーカーの探索を目的に、尿中に排泄される脂質代謝物を、質量分析装置を用いて網羅的に解析した結果、プロスタグランジン(PG)類の代謝産物である「PGF」、その中間代謝産物の「15-keto-PGF」、「13,14-dihydro-15-keto-PGF」、「PGF」の濃度が、健康な猫の尿と比べ上昇していることがわかったことを発表した。

同成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の竹ノ内晋也大学院生、同・小林唯大学院生、小山動物病院の篠崎達也獣医師、東大大学院 農学生命科学研究科 応用動物科学専攻の小林幸司特任助教、同・中村達朗特任講師(研究当時)、同・農学生命科学研究科 獣医学専攻の米澤智洋准教授、同・農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 放射線動物科学教室の村田幸久准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本獣医学会が刊行する欧文学術誌「The Journal of Veterinary Medical Science」に掲載された。

猫の特発性膀胱炎は尿石症や細菌感染がない、原因不明の膀胱炎のことで、血尿、頻尿、排尿痛、尿しぶり、粗相などの症状を示し、重症例ではさまざまな疾患を合併することが知られており、猫の来院理由の1.5~6.0%を占めているともされている。

ただし、病態や原因が明らかではないため、その診断はほかの疾患が除外された結果であり、積極的な診断法が確立されていないことから、ほかの疾患と区別して素早く容易に診断し、基礎疾患として早期に発見して治療、管理するためのバイオマーカーの開発が求められているという。

そこで研究チームは今回、特発性膀胱炎に特有の尿中バイオマーカーの探索を目的に、特発性膀胱炎に罹患した猫の尿中脂質代謝産物の濃度測定を行うことにしたという。

東大附属 動物医療センターと小山動物病院(栃木県栃木市)にて、猫の特発性膀胱炎と診断された猫と、臨床上健康な猫から自然排尿により得られた尿を用いて、網羅的な解析が行われたところ、全79種の脂質代謝産物が安定的に検出され、このうち、猫の特発性膀胱炎の尿において、PG類の一種であるPGF、およびその中間代謝産物の15-keto-PGF、13,14-dihydro-15-keto-PGF、PGFの含有量が、健康な猫の尿と比較して有意に増加していることが確認されたという。

研究チームはこれまでの研究から、特発性膀胱炎との鑑別が重要な細菌性膀胱炎の猫の尿中では、炎症性脂質としてよく知られる「PGD2」や「PGE2」、「PGI2」といった脂質代謝産物の濃度が上昇していることを報告しているが、今回の研究対象である特発性膀胱炎の猫では、これらの脂質の尿中濃度は健康猫と比べて有意差がなく、これらの2つの疾患において異なる脂質産生・代謝の違いが示されたとしている。

なお、今回の研究成果については、猫の特発性膀胱炎の病態生理の解明や、採血する必要なく特発性膀胱炎を診断できるバイオマーカーの開発に有用であるとしている。