富良野市の特産物である『ふらのワイン』はコロナ禍の影響を多分に受けている。同市が生産から収穫、製造、販売まで行うワイン事業はこれまで富良野エリアを拠点として、道内主要都市を中心に販売してきた。しかし、コロナ禍による観光客の減少により、市外・道外への新しい販路開拓が求められているが、生産量が限られるため量販が困難な状況となっている。

  • 富良野市ブドウ果汁研究所。ぶどうの栽培からワインの製造、出荷、販売まで行う

  • ワインの樽熟成

分析から導き出した顧客属性

そこでワインチームの学生らは、オンラインショップを重視した販売モデルに着目。富良野市が運営する公式オンラインショップの販売データを活用して顧客層を分析した。「顧客の購買意欲を促進するアイデアを考えた」(ワインチーム学生)

  • ワインチームのプレゼンの様子

まず、2017年11月~2019年12月までのオンラインショップ利用状況から、郵便番号、購入端末、支払方法、配送時間、商品名、商品単価、送料、手数料、合計金額の項目を抽出して数値化し、データの準備を行った。

次に、データをグループに分類して各グループの特徴量を比較した。分類方法は「リピート購入の有無での分類」と「人工知能(AI)による機械学習が示す指標による分類」の2つを実践。

リピートの有無での分類では、氏名と番地などの情報が使用できなかったため、同一郵便番号を同一購入者とみなした。学生は「同一郵便番号から複数回注文があった場合、同一購入方法であるケースが多かった。つまり、購入者が同じということだろう」と限られたデータから予測した。

  • ふらのワインのオンラインショップ利用状況からデータを分析

一方、AIが示す指標による分類では、機械学習の導入で多くの特徴量を同時に考慮したデータの分類を行った。グラフ化が不可能な、多くの特徴量を持つデータを情報量の損失を抑えつつ少ない次元で表現できる「主成分分析」でデータの散らばり方を確認し、各特徴量を軸とする高次元空間に散らばるデータを、その距離を基準として任意の数のグループに分類する「k-平均法」で数学的アルゴリズムに基づくグループ分けをした。

その結果、主成分分析では分類の基準を決められなかったが、k-平均法による分析結果から、「2年間で合計22本以上購入した『大量購入者』と、22本未満の『少量購入者』で購入の傾向が異なる」(学生)ことが分かったという。

  • 分析の結果、3つのグループに分類できた

ワインチームの学生は、以上の分類を組み合わせデータを解析。「大量購入者は業者だろう」と予測し、コロナ禍である現状を顧みて、個人であろう少量購入者に注目した。そして彼らは、1回きりの購入者とリピーターの大きな差は360mL瓶の購入傾向であることを導き出した。

  • データの解析により1回きりの購入者とリピーターとの違いが見えてきた

またリピーターは1回きりの購入者と比較して『ふらのワイン』『羆(ひぐま)の晩酌』といったメジャーな銘柄だけでなく、さまざまな種類のワインを購入している傾向があることにも着目した。

学生は、「ワインを試したいが720mL瓶では多いという客層が一定数おり、いろいろ飲みたいと思った人がリピートした可能性がある」と結論付け、「オンラインショップで試飲セットを販売するのはどうだろうか」と提案した。現地で視察した際、試飲した銘柄が売れやすい傾向にあったことも裏付けとしてある。「現地に足を運べなくても試飲できる方法はないかと考えた」(学生)

具体例としては、試飲セットを数パターン用意し、容器は360mLのミニボトル(送料を抑えるならパウチ)で提供する。また、アンケートの回答者には送料を無料にするという施策も提案した。「アンケートの回答率がアップするだけでなく、データ解析に利用すること、リピーターを狙った情報提供ができる」と、根拠を述べた。

  • ワインチームが考えた試飲セットの具体例

彼らの提案は新商品販売だけでは終わらない。「オンラインショップを利用してもらうためには、そもそもWebページを閲覧してもらわなければいけない。現在のWebページにはUX(ユーザーエクスペリエンス)に課題がある」と指摘した。

「ふらのワインの公式Webページからオンラインショップに移ろうとすると、わざわざ別ページとして開くため煩雑で、また、全体のUIに古い印象があり、個人情報の入力にためらってしまう可能性がある」(学生)

ワインチームの提案をまとめると、以下の通りだ。

・試飲セットを提供することで新規購入者を増やす
・試飲セット購入の際に、アンケートを答えてもらう
・売り上げの傾向を把握し、次回購入の提案をすることでリピーターを増やす
・Webページの改修によりオンラインショップの利便性を向上させる

ふらのワインの製造から販売を行う富良野市ぶどう果樹研究所の担当者は、ワインチームの提案に対し、「実際にふらのワインは試飲されたものが売れる傾向が強い。また小瓶のニーズも高くコンビニなどでは売れ行きがいい。2022年10月にはECサイトをリニューアルする予定で、発表内容を参考にさせてもらう。とても鋭い分析だった」と感心していた。

富良野市長「ぜひ、行政に勤めていただきたい」

2チームのプレゼンを聞いて、北海道富良野市長の北猛俊氏は、「行政はどちらかと言えば、新たな施策に向けての行動が制限されがちになっている。今回、学生の皆さんが、富良野市が抱える課題解決に向けて、データを分析・解析し、どういう施策を打ち出せば解決できるのかを提案してくれたことは、行政にとって大きな一歩になる。今回の提案が実証実験につなげられるかどうかをしっかりと検討したい」と、感謝の気持ちを述べていた。

  • 北海道富良野市長 北猛俊氏

また、学生にコーチング、デジタル技術の活用およびデータ分析のトレーニングを実施した日本オラクルの執行役員 公共営業統括 副統括の本多充氏は、「ワインチームのデータ分析力とリサイクルチームのアイデアの豊富さ、アクションの事細かさには圧倒された。逆に言えば、ワインチームは緻密なデータ分析をもっと生かして、複数のアイデアを絞り出せるし、リサイクルチームはさらに踏み込んだデータ分析に挑戦できるはず。どうすれば相手に伝わるか、行動に移してもらえるかを考えて次に生かしてほしい」と、丁寧にフィードバックを行った。

  • 日本オラクル 執行役員 公共営業統括 副統括 本多充氏

「欲を言えば、行政に勤めていただいて、今回の発表で終わらず継続してまた新しい課題解決に挑戦してほしい」と本音を漏らした富良野市の北市長。この産官学連携プロジェクトは、スマートシティーの推進につなげるだけでなく、地域の課題を自分事として捉え、データ分析から解決策を導き出す優秀な人材の育成にもつながるのではないだろうか。