Zendeskの日本法人は3月31日、グローバルを対象として実施した「カスタマーエクスペリエンス(CX)に関する年次トレンドレポート」の2022年版を発表した。

同調査には、日本を含む21カ国の消費者、オペレーター、カスタマーサービス部門のリーダー、ビジネスリーダーらが参加した。本年が5回目の実施となる。また、Zendeskが実施したベンチマークプログラムに参加した、世界9万7500社以上の「Zendesk」利用企業の声も収集しているという。

日本の調査結果に着目すると、63%の消費者が「満足度の高い顧客体験をすると再び商品を購入したくなる」と回答した。さらに、79%の消費者が「カスタマーサービスをパーソナライズしている企業からより多くの購入をしたい」と回答している。また、1年間の顧客対応件数が前年から19%増加しているなど、カスタマーサービスの重要性が高まっている。

これに伴って、カスタマーサービスに従事するオペレーターが求められる役割も拡大している。43%の消費者が問題解決の際に親身になってくれるオペレーターを求めているほか、優れた顧客体験をするとオペレーターからの提案を進んで受け入れるようになるとする結果も、これを裏付けている。加えて、調査参加者の68%がカスタマーサービスにおいて、オペレーターは売上拡大のために必要不可欠な存在であると認識している

その一方で、短期から中期の戦略的なカスタマーサービス計画を立てている日本企業は37%にとどまる。カスタマーサービスをプロフィットセンター(収益の原動力)ととらえている企業の割合は27%であり、コストセンター(費用がかかる部門)と認識している企業の割合である34%が上回る結果となった。

カスタマーサービスの現場責任者の63%は、「自身の組織はカスタマーサービスをビジネス上の重要な優先事項だと捉えている」と回答した。しかし、経営幹部も同じ考えを持っていると感じている責任者は45%と過半数以下だ。

これらの調査結果を受けて、Zendesk日本法人の社長を務める冨永健氏は「CXやカスタマージャーニーを重要視する最近の企業の動きは、デジタルトランスフォーメーション(DX)が話題になり始めた当初の様子と似ている」と話してくれた。

  • Zendesk 社長 冨永健氏

経営者層の間で徐々に「DX」がうたわれ始めた時期を思い返すと、経営者がDXの指揮担当者として指名するのは情報システム部の部長などが多かった。元来の情報システム部は売上責任を負う部署ではないため、デジタルテクノロジーを活用したビジネスの革新には不向きであるにもかかわらずだ。

DXの議論が活発化するつれて「DXとはデジタルツールの導入ではなく、ビジネスそのものを革新することにある」という共通理解が作られ始めた。顧客対応やCXが重要視されるようになった現代の様子は、DXにおけるこのような議論を彷彿とさせるとのことだ。

CXについて語る際に欠かせない「カスタマージャーニー」とは、広告などのマーケティング領域から、問い合わせ対応、購買、アフターフォローまで、顧客と企業のあらゆる接点を含んでいる。これらの各接点では、多くの企業で個別の最適化ができているように見える。しかし、カスタマージャーニー全体の最適化はできているだろうか。

例えば同一のサービスに対して、Webで一度個人情報を入力していながら、実店舗へ来店した際に再度同じ情報の入力を求められ、電話で問い合わせた際にも口頭で個人情報の伝達を求められるような場合、いくら各接点で素晴らしいサービスを提供していても、最適なCXを実現しているとは言えない。

では、企業は優れたCXを提供するためにどうしたら良いのだろうか。冨永氏はその答えを「全員野球」になぞらえる。特定の人物が強いリーダーシップを発揮して変革を進めるというよりも、むしろ、リーダー職を設置しながらも幅広い領域のプレイヤーが各自の担当において最良のパフォーマンスを発揮するモデルが良いとのことだ。「誰か一人を雇って解決するものではない」と同氏はいう。

リーダー職として、CRO(Chief Revenue Officer:最高収益責任者)やCCO(Chief Customer Officer:最高顧客責任者)を設置する企業が海外では増えているという。同職に適した人材としては、小売業の場合、店舗での接客経験とカスタマーサポートセンターの経験を持つような人がふさわしいとのことだ。つまり、店舗におけるリアル空間における接客のノウハウと、電話対応におけるバーチャルな接客のノウハウをどちらも有している人材だ。

DXの黎明期、コストセンターであったシステム部が先導したために企業のDXが遅れるという課題が見られた。カスタマーセンターが同じ轍を踏むことを回避するには「データの利活用」が最重要となる。カスタマーサポートの経験者は顧客対応の経験が豊富だ。これに加えて、「どの接点における顧客満足度をどれだけ向上させれば売り上げに反映されるのか」をロジックとして展開できる力が求められる。

マーケティング部など他部門の人材と連携しながら、顧客満足度を売り上げに転換できるロジックをデータから導く仕組みが必要だ。DXと同様、「流行しているから取り入れる」のでは失敗が見えている。「真に企業価値を向上させるためのCX」を全員野球で叶えてほしい。