富士通はこのほど、同社のESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンスの各頭文字を取ったもの)に資する取り組みについて、サステナビリティ経営および人材戦略を取り上げる説明会を開催した。

同社はパーパス(存在意義)として、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能なものにしていくこと」を掲げている。事業のあらゆる活動がパーパスの実現に結び付くよう、財務だけではなく非財務領域も含めた経営目標を設定しているとのことだ。

2021年10月、富士通はパーパスの実現を目指す新事業ブランド「Fujitsu UVANCE」を策定した。この名称はUniversalとAdvanceに由来する造語だ。あらゆる(Universal)ものをサステナブルな方向に前進(Advance)させるという意思が込められている。

加えて、同ブランドの実現を下支えするための7つのGRB(Global Responsible Business)を策定し、財務・非財務資本を社会への価値提供につなげることで、さらなる資本の拡大を目指す正のループモデルを同社は描いている。

また、各GRBには2022年度末を達成期限とするKPIを定め、項目ごとに責任者を配置している。さまざまなバックグラウンドを持つ役員が、各自の強みを発揮しグローバル全体でGRBを推進しているとのことだ。

  • 「Fujitsu UVANCE」を中心としたサステナビリティ経営の価値創造モデル

  • GRBの7項目とその目標

同社の執行役員常務であり、CSO(Chief Sustainability Officer)を務める梶原ゆみ子氏はパーパスの実現について「まずは当社が自らの変革を進めたい。そのための中核になるのは人的資本であり、さまざまな人の価値観や対話から生まれるアイデアが社会課題の解決につながるはずだ」とコメントしていた。

  • 富士通 執行役員常務 CSO 梶原ゆみ子氏

梶原氏の言葉を引き継ぎ、CHRO(Chief Human Resources Officer)を務める平松浩樹氏がHR(Human Resources:人材)戦略について説明した。同社はHRビジョンとして、「社内外の多彩な人材が俊敏に集い、社会のいたるところでイノベーションを創出する企業へ」を掲げる。

平松氏は「当社の最大の経営資源であり、価値提供の源泉となるのは人材だ。多種多様な人材を惹きつけて、その能力を最大に発揮してもらえる環境づくりを進める」と述べていた。

  • 富士通 執行役員常務 CHRO 平松浩樹氏

同氏が紹介した富士通の中長期的な成長に向けた人材戦略の具体的施策は「ジョブ型人材マネジメント」「DX人材への進化」「組織変革に向けた取り組み」の3点だ。

「ジョブ型人材マネジメント」では、新卒一括採用と長期雇用を前提とした人材マネジメントを、ジョブ型の人材マネジメントへとフルモデルチェンジを図る。同社はこれまで、人を前提として、その人の資格や職能にふさわしいポジションを新設するような発想が主だったようだ。しかしこれでは、不要な階層の職務や、責任と権限があいまいな役職が増える課題を抱えていた。

今後は事業戦略に基づいた組織設計を行ったうえで、各職務に必要な資格やスキルをジョブディスクリプションにより明確化し、最適な人材を選出していく方針へと変化する。必要に応じてリスキリングやアップスキルの機会を社員へ提供するほか、場合によっては適切な職能を有する人材を社外から登用するという。

さらに、報酬体系も方針を変更する。これまでは人に基づく年次や職歴に応じた職能ベースの給与体系だったのだが、今後はグローバル基準の職責に応じた給与体系となる。同じ仕事を長年続けても職責が変わらない限りは給与が上がらないのだという。これにより、より大きな職責への挑戦を促したい考えだ。

  • 人材マネジメントの方針を大きく変更するようだ

「DX人材への進化」では、サステナブルな社会を実現するための新たな人材づくりに取り組むという。上述のジョブ型の人材マネジメントにおいては、各職務に求められる要件がジョブディスクリプションにより明確化する。そのため、各社員が描く自らのキャリア形成のために必要な学習を企業が支援するとのことだ。

その一例として、同社はOn Demand型教育を開始した。会社主導で階層別に一律的な教育を提供するのではなく、社員が自律的に学習することを目的としている。その第1弾として、学習プラットフォーム「Fujitsu Learning EXperience」を展開し、Udemyの動画を自己負担不要で視聴できる環境を構築した。

もう一つの例には、グローバル規模で開催するイベント「Fujitsu Learning Festival」がある。同イベントでは、社外の有識者や同社役員による講演、セミナー、社員参加型のワークショップなどが催される。2021年は「SDGs」をテーマに開催し、グローバル全社から3万7000人ほどの社員が参加した。

そのほか、社内のさまざまな人材が自身の経験やナレッジを語る場として、TEDをイメージした社内版のトークセッションの機会も設けているそうだ。

  • On Demand型教育の例

上記2点の組織変革を支えるための施策が「組織変革に向けた取り組み」だ。特に、社員一人一人のウェルビーイング向上に焦点を置いている。そこで同社は、「Career & Growth」「Financial」「Social」「Health」の4つの領域を定め、多面的に社員を支援する。社員のウェルビーイングが向上することで企業へのエンゲージメントが向上し、結果として企業と個人の両方の成長につなげられるとの考えに基づくようだ。

同社は2020年7月から、マネジメントとコミュニケーションの変革を目的とした1 on 1ミーティングを定期的に実施している。社長から新入社員まで全ての階層の社員が上司と部下でミーティングを実施するのだそうだ。1 on 1ミーティングと従業員エンゲージメントには強い相関があるのだという。

さらなる取り組みとして、自律的なキャリア形成を促すためのキャリアオーナーシッププログラムを全社員へ提供している。年功序列型の組織に任せたキャリア形成ではなく、自分自身のキャリアを主体的に形成するよう意識を変革する目的の施策だ。誰もが自分らしく活躍できる企業文化の醸成を目指す。

平松氏は「従業員エンゲージメントを向上させる特効薬のようなものはないと認識している。社員一人一人と向き合い、多様な価値観を理解して個人の成長を支援することが重要」と話していた。

  • キャリアオーナーシッププログラムの例