エレベーター・エスカレーターのメーカーであるフジテックは、AWS、Googleなどのさまざまなクラウドサービスを活用して、アプリケーションのモダン化を進めてきた。近年では、IoTを使って世界中のエレベーター遠隔監視システムを構築するなど、ビジネス変革を進めている。

事業会社は、クラウド上でどのようなビジネス変革を成すべきか。そして、最初の一歩をどう踏み出すべきか。3月4日に開催されたTECH+セミナー クラウド移行Day 2022 Mar.「クラウドの効果を最大化する」にて、フジテック 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏が、自社での経験も踏まえ、事業会社の視点から「クラウド化」の5W1Hを説明した。

  • フジテック 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏

Why: クラウド化はなぜ必要か

友岡氏はまず、フジテックでAWSを導入した際のことを振り返り、現場は「一人称のシンデレラストーリー」を求めていると分析する。曰く、「AWSを導入すれば、サーバー管理が不要になるのでみんな喜んでクラウドに切り替えると思っていたが、実際にはオンプレミスのサーバーをなかなか手放してくれなかった」からだ。現場には目に見えるサーバーへの信頼と、目に見えないクラウドへの不安から、現状維持志向が強く存在していたが、最終的にクラウド化に対する現場のモチベーションを向上させたのは、「一人一人にメリットがあるとわかること」だったという。

「各部門のサーバー管理者にとっては、休日に行われる施設内の電気工事の際にサーバー電源のON/OFFのためだけに会社に行く必要がなくなり、例えば『子どもの運動会を途中で抜けなくて済む』というような分かりやすいメリットが生まれます。開発エンジニアにとっては、サーバー1台設定するために、これまで必要だった契約や稟議書といったペーパーワークが不要になることが分かりやすいメリットです。現場の一人一人が『クラウドの方がいいな』と心を動かすようなストーリーを紡ぎ出す必要があります」(友岡氏)

一方、経営者が求めるものは「顧客のシンデレラストーリー」だという。Amazon創業者のジェフベゾスは、普遍的な顧客ニーズとして「安い」「素早い配送」「品数の豊富さ」を挙げた。顧客起点で考えると、「安い」「早い」「○○」が、万国共通で当てはまる提供価値となり、「○○」に自社事業の特性を入れればストーリーが成り立つとする友岡氏。クラウド化によって顧客提供価値がどのように向上するのかを語る必要がある。特にクラウドの場合、「つながる」ことから生まれる価値を訴求すると良いと補足する。

「経営者がクラウドを理解してくれないという相談をよく受けますが、むしろ自身が経営を理解することが大事なのです。お客さまや従業員のペイン(お困りごと)を発見し、経営者へのイシューセリング能力を高めていくべきでしょう」(友岡氏)

また友岡氏は、オンプレミスとクラウドのコストを比較する際には、土地・施設のコスト代や、UPS(無停電電源装置)、消火設備、空調設備、防犯設備、免震設備、自家発電機、人件費、光熱費といった費用を含めた議論をすべきとも忠告した。オンプレミスのコストがサーバー費用だけで算出されている場合が多いが、水面化のコストも算出して比較すべきだ。