浜松医科大学と日本医療研究開発機構(AMED)は3月18日、動脈硬化モデルマウスを用いた実験で、心血管系に良い効果を持つことなどで知られる「エイコサペンタエン酸」(EPA)や「ドコサヘキサエン酸」(DHA)などのオメガ3脂肪酸を食餌に添加したところ、老化を防ぐ因子として注目されている「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド」(NAD+)が血管壁で増加することを発見したと発表した。
同成果は、浜松医科大 細胞分子解剖学講座の瀬藤光利教授、同・佐藤智仁特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、動脈硬化症と血栓症、血管生物学などを扱う学術誌「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」に掲載された。
NAD+は、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生反応の補因子の1つであり、加齢とともに低下することや、加齢関連疾患の発症に重要な役割を担っていることが知られていることから、老化関連因子として注目されている。
一方、オメガ3脂肪酸の一種であるEPAやDHAは、虚血性心疾患などの心血管イベントや、神経系の疾患に良い効果があることが知られているが、EPAやDHAを投与した際のNAD+の組織内の分布に関しては良く分かっていなかったという。
そこで研究チームは今回、分子の質量を測定することでイメージングする質量顕微鏡の1種である「脱離エレクトロスプレーイオン化イメージング質量分析」(DESI-IMS)を使用し、高脂肪食を投与した動脈硬化モデルマウスの大動脈壁の解析を実施。食餌にEPAやDHAを添加し、経口摂取させたところ、代謝や老化と関連のあるNAD+やその代謝物が血管壁中で増加することが確認されたという。
これまで、質量分析イメージングで一般に使用されている「マトリクス支援レーザー脱離イオン化法」(MALDI)では、イオン化のエネルギーが大きく、試料にマトリクスを塗布する前処理に時間を要するため、NAD+のイメージングは困難であり、DESI-IMSによって、NAD+のイメージングに成功したと研究チームでは説明しており、こうしたNAD+やその代謝物をイメージングできる技術は、組織採取から解析を行うまでの過程や、測定装置の改良など多くの課題があるものの、今後の老化関連疾患の研究に活用されることが期待されるとしている。