新型コロナウイルスの感染拡大は、企業にリモートワークへの転換をもたらしたが、その際、紙とハンコがボトルネックになった企業も多いだろう。

電子書籍と紙書籍のオンライン販売を行うイーブックイニシアティブジャパン(以下、イーブックジャパン)は、2020年2月より全面的にリモートワークに移行した。同社の経理部門は請求処理を自動化するDeepworkの「invox」を導入し、リモート対応と電子帳簿保存法改正に向けた環境整備を進めたという。今回、同社でコーポレート本部 財務経理グループ 五十嵐沙菜穂氏に話を聞いた。

  • イーブックイニシアティブジャパン コーポレート本部 財務経理グループ 五十嵐沙菜穂氏

以前から課題だった回収期間の短縮、コロナで一気に進む

イーブックジャパンの経理業務は五十嵐氏をはじめとして4人で回している。全社でリモートワークに移行したことを受け、経理部門では臨時対応として請求書をメールで回収することにした。しかし、回収用のメールアドレスを分けても、そのアドレスを使わずに送付する社員もおり、確認作業に時間がかかるという課題を抱えていた。

そこで、リモートで請求書などの書類の確認ができるシステムを探すことに。合わせて、現行のシステムで電子帳簿保存法(以下、電帳法)の改正に対応できるかを洗い出す必要もあった。そのため、電帳法の理解を進めるためにコンサルタントを探したり、契約書電子化や立替経費の領収書電子化の準備をしたりと、回収から仕訳に持っていく部分の整備を進めた。

「新型コロナ前から、経理業務では請求書を含めた書類の回収期間を短縮することが課題でした。月初5営業日目に親会社に報告する必要があり、3営業日までに完了させることを目的としていました」と五十嵐氏。これに、コロナ禍でのリモートワークが加わったと、経理業務の電子化の流れを説明する。

invox選定の決め手は導入の容易さ、電帳法対応、シンプルなUI

このような準備期間を経て導入したのが「invox」だ。選定のポイントはいくつかあるが、導入しやすさ、電帳法対応などが大きな魅力となったそうだ。取引先の中では支払報告書で済ませているところも多く、実際に受け取る請求書は月170件ほど。「当社の規模、書類の枚数などを考えると、コストをかけて大規模なシステムを導入して全てを変えるというのは非現実的でした」と五十嵐氏は話す。invoxは受取請求書の入力作業を自動化するため、既存の経理システムと連携して使うことができるのだ。

システム面では、精密なデータ化、UIのシンプルさなどが決め手となった。請求書のOCRは数社検討したが、「OCRだけではデータを拾いきれません。逆に、OCRで手書きを読み込める場合はワークフロー機能がなかったり、タイムスタンプ機能がなかったりと、当社のニーズを満たしていませんでした」と、五十嵐氏は当時を振り返る。

当時は電帳法改正前であり、タイムスタンプが必須だった。しかし、invoxを知った頃は、改正によりタイムスタンプがなくても大丈夫だろうと判断できた。「履歴が残り、ワークフロー機能がついていて、仕訳と連携できるという点で、invoxは当社が抱えていた課題の解消になると判断しました」と、五十嵐氏は説明した。

UIについては、「経理システムは他の部署にも使ってもらわなければなりません。そのため、なるべく使う人の負担が少なく、直感的に操作できるという点は重要です」と五十嵐氏はいう。実際、社員の評判もよく「画面がシンプルでいい」とのことだ。

リモート前と比較して作業時間は6割削減

invoxの導入は2021年4月に開始したが、イーブックジャパンはinvoxの導入サポートパックを使って導入した。面倒な初期設定も、「会計システムからマスターを取り出して渡すだけでよかった」という。Deepworkには簿記の資格を持っているエンジニアが多く、業務を理解しているそうだ。五十嵐氏も、「システムを導入する場合、こちらがやりたいことがベンダーにうまく伝わらないことがありますが、Deepworkはこちらがやりたい設定や申請を簡素化したいと伝えると逆に提案してもらえました」と語る。

導入時期は2021年4月、準備期間は2カ月だが、その間締めなどの業務をこなしながらだったので、実質は「1カ月少し」(五十嵐氏)で終わった。

その年の6月からは「Concur」を使った領収書の電子化、タイムスタンプ機能の追加などを進めた。そして2022年1月より、invox電子帳簿保存(invoxシリーズの国税関係書類の電子保存サービス)の導⼊と電子化が完了した。

効果として五十嵐氏は3つ挙げる。

1つ目は 、請求書のデータ化によるリモートワークの効率向上だ。invox導入にあたり、取引先に紙の書類をなるべくPDF形式にするようお願いした。とはいえ、「どうしても紙で」という取引先もあり、その際は、紙の受け取りからスキャンまで代行するinvoxのオプション機能「請求書スキャンサービス」を活⽤しているそうだ。その結果、リモートワーク期間中に週に1回程度交代で出社していたが、今ではほとんど出社していないという。

2つ目は、リモートワークを行う前と比べて、担当者や承認者の作業時間が6割程度短縮できた点だ。リモートワーク前はオフィスに郵送されてきた請求書に担当者が押印し、決裁証明の押印を経て経理に提出するという形だった。

この場合、承認者が不在の時はそこで処理が止まってしまう。前述したように、親会社に報告する関係で、締め処理を3営業日に短縮することを目標にしていた。「請求書を早くくださいと言っても簡単ではありません。電子化により、請求書をすぐに申請、承認と処理できるようになった」という。

ここでは、invoxが備える絞り込み機能も役立っているという。導入する前はメールで請求書を送ってもらっていたが、管理や作業の分担が難しかった。invoxは支払日、取引先などで絞り込むことができるため、部門ごとに4つのグループに分けて承認などができるようになった。「一人一人の負担が大きく減った」そうだ。

3つ目は、経理業務の効率化を通じて締め処理を早期化できたことだ。invoxでは自動で請求データを作成する機能があり、請求書が間に合わないケースについて、月初1営業日目から仕訳入力ができるようになった。また、過去の仕訳データを流用できる機能により、日付と金額が固定されているような取引は月を変えるだけでよい。

五十嵐氏はこれまでの取り組みを振り返りながら、コロナ禍前から業務効率化を進めていた点が順調に進められた大きな理由とみる。経営者の後押しもある。同社は電子書籍事業を持つことから「SAVE TREES!」を経営理念に抱えており、コロナ前からペーパーレスに前向きだった。経理では2017年に発行請求書の電子化を済ませており、経費精算では2018年にConcurを導入済み。次は帳簿書類の電子化を進めることになっていた。

リモートワークについても、2019年2月のオフィスリニューアルに際して、フリーアドレスを本格導入し、全社員にノートPCを支給するなどの素地も整っていたという。

invoxで当初の課題を解決できたところだが、「これからも細かな改善要望などを伝えていくつもりです。今後は、インボイス制度への対応にも期待しています」と五十嵐氏は語っていた。