森林研究・整備機構森林総合研究所(森林総研)、新潟大学、新潟県森林研究所、ベルティの研究グループは2022年2月28日、無花粉スギの判別手法と量産法を確立し、論文および「スギの雄性不稔遺伝⼦ MS1 判別マニュアル」を公開したことを発表した。
なお、同成果の詳細は、科学誌「Frontiers in Plant Science」にオンライン掲載された。
人工林の約44%を占めるスギは、日本で最も重要な樹種である一方、毎年春に大量の花粉を放出し、それを一因としたスギ花粉症は日本の人口の約40%に見られる。これは日本の深刻な社会的および公衆衛生上の問題であり、解決すべき課題としてさまざまな取り組みが行われている。
森林総研らが行った研究は、未熟種子を培養し、無花粉スギの要因となる遺伝子(MSI)を目印として用いることで、生産する苗木を全て無花粉スギにすることを確認したというものだ。さらにこれらは、組織培養技術を駆使することにより試験生産にとどまらず、商業規模での大量生産も可能にするという。
7月中旬から下旬に成熟する前のスギの球果を採取し、未熟な種子を取り出す。これらを培地で2〜3ヶ月程培養することで細胞の塊(カルス)となる(上図A)。
カルスには花粉を生産するスギとみ花粉スギが1:1の割合で含まれていることから、そこから無花粉スギを取り出す必要がある。
一部のカルスを取り出し、市販のDNA抽出試薬の中に入れ煮沸し、上澄みを使用してPCRで遺伝子を増幅し電気泳動でバンドパターンを確認する。
無花粉スギに特徴的なバンドパターンが観察されたカルスを新しい培地に移し、培養を継続して成熟させると不定胚と呼ばれる組織(上図B)となる。不定胚は種⼦のように発芽し、苗となる(上図CおよびD)。得られた苗をポットに移して育苗するが、この時点ですべての苗が無花粉スギとなるのだ。
これらの方法を使うと、わずか1gのカルスから1000本以上の苗木を生産でき、さらに不定胚は密封し冷蔵保存すれば2年間は発芽能力を保つ。したがって工程管理された工場で大量生産して保管することが可能だ。これは年間を通じた需要変化にも対応できる。
研究グループで開発した無花粉スギのDNA鑑定法は、MSIと呼ばれる無花粉スギの原因となる遺伝子に着目し、その遺伝子の変異を直接検出している。この遺伝子を持つスギは全国的に分布するため、各地域の天然林や在来品種の個体からでも無花粉スギの変異を持つ個体を見つけ出すことが可能だという。
花粉症の一因と認識されてきたスギは、古くから日本人の生活や文化と密接に関わっている。さまざまな環境で育ち、成長も早いことから林業用だけでなく、都市やオフィスの緑化用にも無花粉スギが活用できるかもしれない。
研究グループは、無花粉スギの量産技術の確立により、社会においてスギの活用がますます広がることが期待できるとした。