LegalForceは3月10日、2022年(令和4年)4月から段階的に施行される「育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下、育児・介護休業法)の改正について、その改正内容と企業への影響、企業が対応すべきことについて解説するセミナーを開催した。

育児・介護休業法改正の背景

育児・介護休業法は、育児休業および介護休業や、その両方に関わる時短勤務制度、時短勤務制度などについて定めている。同法の改正が目指すのは、男女ともに子育てをしながら働き続けられる環境の整備だ。これにより、事業者は人材の雇用を維持しやすくなり、労働者は育児や介護と仕事を両立しやすい環境が得られる。

今回の法改正の趣旨について、LegalForceの法務開発に携わる今野悠樹氏は「出産や育児などに伴う労働者の離職を防ぎ、特に男性について育児休業取得の促進を図るとともに、男女ともに仕事と育児などを両立できるようにするためのものだ」と説明した。

  • LegalForce 法務開発 / 弁護士 今野悠樹氏

国内の男性の育休取得率に着目すると、平成8年度以降数%のままほぼ横ばいで推移しており、令和2年度にようやく10%を上回り12.65%となっている。女性の育休取得率が80%程度であることを考えると、両者に乖離が見られる。また、男性の育休取得期間は、大多数が1カ月未満と非常に短期間である点も課題だ。

海外に目を向けると、スウェーデンの男性育休取得率は2012年時点で88.5%に達している。また、フランスは2016年時点で67.0%だ。なお、フランスでは2021年7月から、男性も1週間の育休取得が義務化されており、今後100%まで近づくことが予想される。日本では近年ようやく10%を超えた程度であることを鑑みると、他国と比較して極端に低いことが見て取れる。

  • 男性の育休取得状況の国際比較

法改正の内容と企業への影響

今回の育児・介護休業法の改正は、2022年4月から2023年4月にかけて、項目ごとに施行日が段階的に設けられている。2022年4月には「育休を取得しやすい雇用環境整備の義務化」「育休の周知・取得以降の確認の義務化」「有期雇用労働者の育休の取得要件緩和」が予定されている。

  • 育児・介護休業法の改正内容と施行時期

「育休を取得しやすい雇用環境整備の義務化」として、事業者には育休に関する研修の実施が規定されている。全社員を対象とするのが望ましいとのことだが、実施が困難な場合には、少なくとも管理職への研修の実施が求められる。また、専門の窓口設置など、育児休業に関する相談体制の整備も必要だ。

さらに、自社の労働者の育休取得事例を収集して提供する必要がある。性別や職種、雇用形態によって偏らないように情報を収集し、社内イントラや書類によって配布するのだという。加えて、自社の労働者に対して育休取得促進に関する方針を周知しなければならない。これらは、いずれかの実施が必要とされているが、政府の指針では複数の実施が望ましいとされている。

  • 育休を取得しやすい雇用環境整備の義務化に関する改正内容

「育休の周知・取得以降の確認の義務化」としては、労働者から妊娠や出産の申し出があった場合には、育休を取得できるように個別に案内をしなければならないと規定されている。面談の実施や書類の交付により本人の取得意向を迅速に確認するとともに、育休の申し出先や育児休業給付金に関することなど、個別に周知すべき事項を迅速に案内するべきだ。おおむね2週間以内の実施が目途とされている。

なお、部下から上司に対して「妊娠しました」とする旨を口頭で報告した場合にも、妊娠・出産の申し出に相当する。このような点からも、特に管理職を対象とした育休に関する教育研修の実施が望ましい。

「上司が『おめでとう、これから頑張ってね』と声を掛けて終えるのではなく、企業として育休制度を適切に案内し、取得の意向を確認する必要がある」(今野氏)

  • 育休の周知・取得以降の確認の義務化に関する改正内容

現行の育児・介護休業法において有期雇用労働者が育休を取得するためには、「引き続き雇用された期間が1年以上であること」が定められているが、今回の法改正によりこれが撤廃される。これにより、入社後1年未満のパートタイムやアルバイトの従業員でも育休を取得しやすくなった。

例外として、労使協定を結ぶことで法改正以降も勤続1年未満の労働者を育休の対象外とすることは可能とのことだ。

  • 有期雇用労働者の育休の取得要件緩和に関する改正内容

次の段階として、2022年10月に「出生時育児休業(通称:産後パパ育休)の新設」「育休の分割取得・1歳以降の育休開始日の柔軟化」の施行が予定されている。

現行法においては、育休の取得は原則的に1回のみであり分割できない。例外として、育休を取得していた男性が産後8週間以内に仕事に復帰した場合にのみ、再取得が認められている。また、原則として就業は不可とされる。

しかし、産後パパ育休制度によって、従来の育休とは別に、産後8週間中に最長4週間まで休暇を取得できるようになる。連続しての取得はもちろんのこと、分割して取得しても良いとのことだ。さらに、労使協定として事前に定めることで、一定の範囲内で休暇中の就業も可能となる。これによって、責任範囲の広い立場の社員でも育休を取得しやすくなると期待される。

「行政などが実施する、男性の育児休業取得時期に関するアンケートの結果により、子の出生後8週間以内に育休を取得するとの回答が多かったことを踏まえ、男性の育休取得のニーズに配慮して設けられた制度だと思われる」(今野氏)

  • 出生時育児休業に関する法改正内容

さらに現行法では、保育所に入所できないといった理由で1歳以降に育休延長する場合、育休の開始日は子が1歳になった日、または1歳6カ月になった日に限定している。法改正以降には、1歳以降に延長する場合の育休取得開始日を柔軟に選択可能となる。

また、原則として分割が認められていなかった休暇も、改正後には夫婦ともに2回に分割して取得できるようになる。

  • 育休の分割取得および1歳以降の育休開始日の柔軟化に関する法改正内容

  • 2022年10月に施行される法改正内容のまとめ

2023年4月には「育休取得状況の公表の義務化」が予定されている。現在のところは、厚生労働省が高いレベルで育休取得を推進していると認めた「プラチナくるみん企業」のみが育休取得取得状況の公表を義務付けられている。

今回の法改正によって、従業員数が1000人を超える企業については年に1回育休取得状況の公表が義務化されることになる。公表の方法とは「インターネットやそのほかの適切な方法」のことだ。従業員数が1000人を超えているにもかかわらず取得状況を公表せず、行政による是正勧告にも従わなかった場合には、企業名を公表するといった制裁を受ける可能性もあるとのことだ。

  • 育休取得状況の公表の義務化に関する法改正内容

「日本の育児休業制度は休業期間の長さや育休給付金の存在などから、実は海外と比較して高く評価されている。しかし、いかに良い制度があっても、それを利用するための意思や知識がなければ宝の持ち腐れになってしまう。これからの労働環境をより良いものにするためにも、働く世代の方には今回の法改正の内容を押さえておいてほしい」と今野氏は話し、セミナーを結んだ。

  • 育児・介護休業法法改正内容のまとめ