月桂冠と甲南大学は3月9日、日本酒などの製造に用いられる麹菌が作る成分「デフェリフェリクリシン(Dfcy)」に、ヒト由来のがん細胞を死滅させる作用があることを発見したと発表した。

同成果は、月桂冠 総合研究所と、甲南大 フロンティアサイエンス学部の川内敬子准教授らの共同研究チームによるもの。月桂冠が麹菌によるDfcyの製造および供給を行い、甲南大の川内准教授の研究チームが抗がん作用の検証を担当した。詳細は、3月25日から開催される「日本薬学会第142年会」にて発表される予定だという。

麹菌が作る成分のDfcyは、アミノ酸が6つ環状につながった構造のペプチドで、日本酒醸造で用いる米麹はもちろん、日本酒、酒粕、甘酒にも含まれている。しかし、Dfcyは鉄と結合して赤褐色の着色成分「フェリクリシン(Fcy)」となるため、無色透明であることが求められる日本酒にとっては不要な物質であり、現在、日本酒などの製造においてはDfcyやFcyを作らせない技術が確立されているという。

月桂冠では、その日本酒として不要なDfcyやFcyの有効活用に向け、大量生産技術の開発や、その機能の解明などを進めてきたとのことで、これまでに鉄分吸収促進や抗酸化作用、尿酸値低減、抗炎症作用、美白作用、皮膚バリア機能といった機能を有することを見出してきたほか、植物への鉄分補給による生育促進作用も確認しているという。

また、鉄はがん細胞の増殖にかかわることが知られており、鉄と結合する一部の物質には抗がん作用があることが知られていることから、今回の研究では、Dfcyの抗がん作用についての検証試験を行ったという。

その結果、ヒト乳がん由来細胞をDfcyで処理することにより細胞の死滅が確認され、抗がん作用があることが判明。死滅する前の細胞には多数の「空胞」(核やミトコンドリアなど、細胞内の円形や帯状などの細胞内小器官)が形成されており、マーカータンパク質を用いた詳細な検証から、細胞内で不要になった成分が除去されるオートファジー性細胞死によるものであることが示されたという。また、肺がん細胞や大腸がん細胞に対しても同様の死滅と空胞形成があったことから、ほかの多くのがん細胞腫でも同様の抗がん作用が期待できるとしている。

なお、研究チームでは今回明らかになったがん細胞の死滅機構について、新規抗がん剤の研究開発につながる成果であると考えられるとしている。

  • DfcyとFcyのイメージ

    DfcyとFcyのイメージ (出所:月桂冠Webサイト)