NECネッツエスアイは2月28日、ローカル5G分野の事業戦略を発表した。同社は、地域課題の解決のための「地域ネットワーク」とビル(建物)内の課題を解決する「インビルネットワーク」をローカル5Gの注力領域として定めた。

  • NECネッツエスアイのローカル5G事業におけるターゲット領域

今後はBeyond5Gへの対応も含めて、各領域を支える最適な製品群やソリューションの提供などローカル5G事業の本格展開を進める。同日に開催された記者会見では、2023年度にローカル5G事業における売上高100億円の目標が発表された。

NECネッツエスアイ 執行役員 中川貴之氏

執行役員の中川貴之氏は、「2019年から一般企業もライセンスバンドを利用できるようになったことで、今後はローカル5Gを中心としたプライベートネットワークが通信サービスをけん引するだろう。ローカル5G事業は、当社のネットワーク事業の軸になると考える」と話した。

NECネッツエスアイは、企業のデジタルシフトのサポートのために立ち上げた「Symphonict(シンフォニクト)」ブランドの下で「働き方DX」「まちづくりDX」を注力事業としている。両事業では、これまでWi-Fiや4G/LTE、LPWA(Low Power Wide Area)などのネットワークサービスを提供してきた。同社はこれまでの経験・実績を基に、ネットワーク事業の高度化の一環として、2024年から目的別にネットワークを統合して提供する「マルチパーパスネットワーク事業」への進出を構想しており、その一環としてローカル5G事業の本格展開を開始するという。

サービスの本格提供に向けて、NECネッツエスアイはすでに複数の自治体や企業などと実証実験を重ねてきた。現在はローカル5Gのサービス提供体制の確立や、設計・検討から構築・施工、運用までをサポートする「プロフェッショナルサービス」の立ち上げを進めている。

  • 「プロフェッショナルサービス」のイメージ

2022年度からはローカル5G利用のための具体的なサービスとして、以下3つの戦略ソリューションを提供する。

「地域ネットワークに最適なローカル5G提供」では、NECネッツエスアイの子会社であるNECマグナスコミュニケーションズ製の一体型基地局装置をベースに、ケーブルテレビ(CATV)事業者とローカル5Gを活用したサービスを展開していく。

  • 「地域ネットワークに最適なローカル5G提供」のイメージ

例えば、電柱に一体型基地局を設置し、集合住宅向けに高速インターネットサービスを提供したり、河川や道路といった社会インフラを4K映像でチェックするインフラ監視サービスなどを構想しているという。

NECネッツエスアイ デジタルタウン推進本部 第三ビジネス推進グループ 有川洋平氏

デジタルタウン推進本部 第三ビジネス推進グループの有川洋平氏は、「同ソリューションを支えるのが5Gコアと一体型基地局だ。5Gコアを地域ごとに設置し複数事業者で共有。自治体ごとのCATVネットワークを光回線で結んだ地域ネットワークと接続することで、各事業者に基地局を設置するだけでローカル5Gのエリア構築が可能になる」と語った。

「インビル市場に向けたコストイノベーション」は、韓国のHFRのローカル5Gおよびプライベートネットワーク関連製品をベースにしたアンテナ分散技術を活用することで、Wi-Fi並みのコストでローカル5Gのエリア構築を目指す。また、NECネッツエスアイの働き方改革向けの各種サービスと組み合わせることで、将来的にはスマートビルを実現するインビルソリューションも展開していくという。

有川氏は、「アンテナ分散技術は、CU/DU(基地局)に「ORANMUX」という製品をつなげることで、その先に最大24のRU(無線装置)を分散設置できるようになるものだ。この構成にすることで、従来、基地局単位で何百万円とかかっていたコストを削減し、Wi-Fiと比較検討できるコスト水準で5Gを提供できる」と説明した。

  • 「インビル市場に向けたコストイノベーション」のイメージ

当日は同社の社屋の3フロアをWi-Fiでエリアカバーした場合(3020万円)に対して、同技術でローカル5Gエリアを構築した場合の試算(3110万円)が示された。

  • Wi-Fiとアンテナ分散技術を用いたローカル5Gエリア構築のコスト比較

「Beyond5Gに向けた最先端対応」では、共同で設立したベンチャー企業FLARE SYSTEMSとローカル5Gに関わる新ソリューションの発掘と展開を進めるという。まずは、ソフトウェア基地局「FW-L5G-1」を活用した取り組みを進める。同ソフトは、5Gに関わる機能(コア、CU/DU。RU)をすべてソフトウェアで提供するもので、汎用サーバで基地局に必要なすべての機能が動作可能なため、専用ハードウェアを用意する必要がない。また、「準同期TDD」という仕組みを導入しているため、上りと下りのスループットを変更できる。

  • 「Beyond5Gに向けた最先端対応」のイメージ

「市場のニーズに応じて戦略ソリューションを投じることによって、市場に対する価値を最大化していきたい。当社のSymphonict DXソリューションやプロフェッショナルサービスを組み合わせることで、プライベートネットワーク市場のリーダーを目指したい」(有川氏)