リコーはこのほど、同社社員向けに社内のデジタル化事例を共有するイベント「社内デジタル革命 Open Collage」を開催した。2018年から開始した同イベントは今回で5回目を迎える。社内に向けたイベントではあるが、記者向けに参加の機会をいただいたので、リコーが取り組むデジタル革命の事例をいくつかお届けしたい。

同社では今回のイベントを「開かれた学ぶ場」と捉えている。社内デジタル革命への理解を深め、参加者が各自の職場でデジタル革命の実践を広げることが目的だという。なお、同社はデジタル革命について「一人一人が自律的にイキイキと働くために、あらゆるデジタル技術を活用し、自らの業務プロセスを改善し続ける活動」としており、同イベントはそのための体質づくりと位置付けている。

ワークフロー革新センター所長を務める浅香孝司氏は「現場の困りごとを最も理解しているのは現場の皆さんであり、解決のためのアイデアを持っているのも現場の皆さんです。社内デジタル革命 Open Collageを通じて、特定の現場だけではなく、あらゆる現場の困りごとを解決できるようにしたい」と、イベント開催の趣旨を説明した。

生産現場における、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)作業になぞらえて、オフィスワークのストレスとなり得る3M(面倒・マンネリ・ミスできない)作業をデジタル技術で取り除くことを目指すという。

  • リコー 理事 ワークフロー革新センター所長 浅香孝司氏

  • リコー「社内デジタル革命」の概要

第1の革命:マスターデータから始める新たな仕事の仕方

さて、最初のデジタル革命の事例は「マスターデータから始める新たな仕事の仕方」だ。同社ではマスターデータを「企業活動を継続するうえでグループ全社が共通で持つべき基盤情報」と定義している。社内全員の共有資産であるとする見解に基づき、「顧客情報」「財務情報」「仕入れ先情報」などを社内に公開している。

しかし、各マスターデータがNotesDBやExcelファイルなどに散在しており、データの検索や収集のために3M作業を繰り返していたという。そこで、社内共通となるマスターデータ(Golden Recode)を整備することで一元管理し、各利用者はPull型で自発的にデータ利活用できる仕組みを構築した。

マスターデータの整備にあたって、まずはデータ定義の整備から開始している。データの更新頻度や利活用のプロセスまで定義したという。また、データの管理組織の明確化や、データ利活用のために適切なソリューションの提供を実施したとのことだ。さらに運用におけるルールを規定し、データガバナンスを効かせている。

同社のマスターデータは、データの検索や閲覧に対応するPower BIと、データ加工やほかのデータとの組み合わせに対応するPower BIデータセット/データフローの2つの方式で最新情報を公開している。前者は非定型業務で利用し、後者はデータ分析や定型業務で利用している。

取り組み結果の一例として、以前は3人の担当者が10日間かけて行っていた資料作成作業を、1人の担当者が1日で遂行できる程度に業務が効率化できたとのことだ。

  • リコーグループのマスターデータ活用

第2の革命:OCRによる債権残高確認の3M業務改善

次の事例は「OCR(Optical Character Reader/Recognition:光学文字認識)による債権残高確認の3M業務改善」だ。同社では顧客の債権残高確認をExcelファイルで集計する際に、手動で入力していたため3M業務となっていた。この業務にAI-OCRを導入することで効率化を図ったという。

具体的には、Uipathのツールを活用して書類の読み取り作業および結果の入力作業を自動化している。また、Microsoft Power Appsを用いて読み取り結果の確認ツールを作成したという。作成した確認ツールはOCR結果とスキャン画像を同一画面上で見比べることが可能であり、読み取り結果を目視確認するだけで作業が完了する。読み取り結果が誤っている場合には手作業で修正する。

この事例のポイントは、OCRの精度が100%でない点をチェックツールによりカバーしていることだ。工夫した点は、RPA(Robotic Process Automation)業務をPicture in Picture機能に対応させていることだ。これによって、RPA実行中もロボットは別ウィンドウで動作するため通常の業務を妨げないという。

同社の代表取締役 社長執行役員・CEOである山下良則氏は今回の取り組みについて「OCRは手書き文字の認識が難しいはずなので、受け取るFAX書類のうちどれだけの割合が手書き書類かを調べてみるのも良いだろう。どのような書類が自動化に不向きであるのかを調べることで新たな3M業務の発見につながり、さらなる業務改善ができるはずだ」と現場の社員に向けてコメントしていた。

  • OCRを活用した債権残高確認業務の効率化のイメージ

第3の革命:RPAを活用した未承認伝票の状況確認業務の効率化

続いては、同社経理部が取り組んだ「RPAを活用したeGrip未承認伝票の状況確認業務の効率化」を紹介する。eGripとは、同社が使用している購買システムだ。同システムは承認依頼から10日後に未承認督促連絡が行われる仕様であるため、締め日前のリマインド通知ができず、伝票の処理漏れがある場合には臨時支払いを行う必要が生じる。

eGripの未承認伝票の有無を都度確認して承認催促をする必要があるが、この業務は月初の業務繁忙期と重なるため業務負荷が大きな点が課題とされていた。また、グループ各社間でも業務手順や対応件数が異なっており、会社によっては対応しきれていなかったとのことだ。

そこで同社はまず、グループ会社間で異なっていた業務手順や通知内容、確認作業実施日を統一した。その後、業務を1カ所に集約することで、会社ごとに行っていた同一業務の削減にも取り組んでいる。また、集約した業務については、Uipathを用いて自動化し作業負担を軽減したという。

今回の取り組みの工夫した点は、会社ごとに確認事項や連絡対象の変更が生じた場合にも比較的自由に対応できるようにRPAを組み立てたことだ。また、プログラミング的な処理は極力用いずに、メンテナンス性を確保している。

RPAに取り組む際には、実際の業務の流れを目視で確認し業務フローを可視化したとのことだ。実業務を目で確認して把握することで改善の検討が進められたとのことで、RPAによって1カ月あたり380分の業務時間の削減に成功している。

  • RPAによる業務効率化のイメージ

山下社長は「新型コロナウイルスの蔓延によって、オフィスに行くことが仕事だという概念がなくなり、どこにいても価値を創造するのが仕事であると、仕事の定義そのものが変わったのではないだろうか。社員には、コロナ禍に突入した当初に『My Normal』として自分自身の働き方の変革に取り組んでもらった。さらに、昨年からは『Our Normal』としてチーム全体の働き方の変革に取り組んでもらっている。こうした取り組みにおいては、個々の業務の可視化が不可欠であり、個人個人が何をアウトプットとして提供するのか再定義が促されている」と述べた。

さらに「仕事の可視化に加えて、上司と部下や、同僚同士のコミュニケーションがうまく取れないとリモート環境を前提とした事業達成は難しい。個々の業務や役割を可視化した上で、エンド・ツー・エンドの各プロセスを同じ目標のもとでつなぐロボットが必要となるはず。ただいたずらにロボットを作ってRPAに取り組むのではなく、『魂の入った』ロボットを活用してほしい」と社員を激励して会を結んだ。