東京大学とNECは2月15日、「Beyond 5G価値共創社会連携講座」(社会連携講座)の開設を発表した。同日には、同講座が目的や研究内容などを発表する記者説明会が開かれた。

社会連携講座は、Beyond 5Gの鍵となる高周波数帯の無線通信(ミリ波・サブテラヘルツ波など)に関連した技術開発を進め、通信事業者・一般事業者・自治体などのステークホルダーと社会実装を目指す産学連携プロジェクトとなる。講座の設置期間は2021年12月から2024年11月までの3年間を予定している。

  • 「Beyond 5G価値共創社会連携講座」のロードマップ

東京大学大学院 工学系研究科長 工学部長の染谷隆夫氏は、「本講座では、情報科学、通信工学、機械工学、データガバナンス、情報倫理などの技術知見を融合して、Beyond 5Gの自律性と拡張性の最大化を目指す」とした。

  • 東京大学大学院 工学系研究科長 工学部長 染谷隆夫氏

また、NEC 執行役員常務の河村厚男氏は、「現代はオープンな環境においてあらゆるものがつながる『Open & Connectivity』の時代だ。ネットワーク機器がオープンなインターフェースで相互につながるだけでなく、ステークホルダーと研究開発から社会実装までオープンな姿勢で進めていく必要がある。本講座の設置を、Beyond5G領域における先駆けの取り組みとしたい」と語った。

  • NEC 執行役員常務 河村厚男氏

研究内容の1つ、「『新たなサービス・行動変容』を創造するリアルタイム・大容量通信システム」では、Beyond 5Gで主に使用されると想定される「ミリ波帯」を使いこなすための電波伝搬となる次世代RANの実現と、そのための電波伝搬路やアンテナの制御技術とそれらを組み合わせる通信システムの開発を行う。

また、開発した通信システムを活用した、医療・モビリティ・製造現場などのシステムにおける状況把握とAIによる状況予測、サイバー世界で現実世界をシミュレートして予測するデジタルツイン、場の雰囲気をも伝える超臨場感通信など、新たなサービスの創造と行動変容の促進にも取り組む。

  • 「Beyond 5G価値共創社会連携講座」で実施する研究開発

「『新たな通信の提供形態』を創造する、人やモノに紐付いた超高空間分解能の情報通信システム」では、時間的・空間的に周波数の効率的利用を目指すダイナミック時空間スライシング技術と、Beyond 5Gネットワークにおける利用者のQoE(Quality of Experience)向上を目指すEnd-to-EndのQoE制御技術の開発に取り組む。

高周波数の無線通信は大容量通信が可能になる一方で、電波の直進性や減衰によりカバレッジが小さくなるため通信として利用しにくいという課題がある。2つの技術は、この課題を解決するために、「人やモノそれぞれに紐付いた通信エリアの構築」という新たな通信の提供形態の創造を目的としている。

  • ダイナミック時空間スライシング技術とEnd-to-EndのQoE制御技術のイメージ

「『情報通信産業の競争力』を創造する、新たな情報通信の迅速展開性を追求する技術」の開発では、ダイナミック時空間スライシング技術やEnd-to-EndのQoE制御技術などを活用し、サイバーインフラシステムおよびサービスの構築における柔軟性と迅速性を追求していく。

また、開発技術の実装評価の場として、東京大学次世代サイバーインフラ連携研究機構が構築を進めるキャンパステストベッドに実験ネットワークを構築しており、今後はBeyond 5G・6Gによる超高速通信の利活用実験を行うという。

社会連携講座の代表教員を務める東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 教授の中尾彰宏氏は、「大学は人材育成をする場だが、企業と一体になって取り組む本講座では人材循環も重要になる。Beyond 5G人材の育成と社会への送り出しに向け、相互人材交流や学生向けの産学連携演習なども実施していく」と説明した。

  • 東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 教授 中尾彰宏氏

社会連携講座の設置背景と目的については、NEC 新事業推進本部 本部長の新井智也氏が説明した。NECでは「Beyond 5G時代」には市場の価値観の変化が進み、従来のように社会課題の解決や企業活動の発展だけでなく、サステナビリティを優先する社会への変革が求められると考える。そのうえで、自社のBeyond 5Gビジョンとして「人間・空間・時間」を超える“テレX社会”を掲げる。

「Beyond 5G時代には、宇宙を含めた広い範囲に空間的な制約が無くなると考えられ、人間の知覚や運動能力を超えたことが実現できるかもしれない。また、これまで以上に正確に未来を予測したり、過去にさかのぼって分析・判断ができるなど時間的な制約も越えられるようになると考えられる。そうしたことを実現するためには、サービスアプリ基盤技術と通信技術を共進化させる必要がある」と新井氏は解説した。

  • NEC 新事業推進本部 本部長 新井智也

  • Beyond 5Gに向けたNECの研究ビジョン

今回の社会連携講座は、同社が重視する通信技術のうち、超高周波数帯の活用に向けた取り組みの一環と位置づけられる。最後に新井氏は、「東京大学とNECがそれぞれ得意とする先進的な研究開発領域の取り組みと、NECの製品・サービスの実装力や事業の経験・実績などの強みを併せて、Beyond 5G時代の新しい価値を提供したい。また、多くの企業、大学、自治体を呼び込んで2030年代のBeyond 5G導入に向けたオープンイノベーションとエコシステム形成を進めたい」と意気込んだ。