Slackは1月25日、Future Forum Pusle調査の結果を公表した。Future Forum Pulseは四半期ごとに調査を実施しており、米国、オーストラリア、フランス、ドイツ、日本、イギリスのナレッジワーカー1万人以上を対象としたアンケートをベースとしている。
セールスフォース・ドットコム Slack アライアンス本部 シニアディレクターの水嶋ディノ氏は調査結果について「ハイブリッドワークは世界中で主流の働き方になったことに加え、場所と時間の柔軟性がより重要になった。そして、近接性バイアスによる仕事環境での不公平が発生する可能性がある」と振り返った。
ハイブリッドワークが主流に
今回の調査は2021年11月1日~12日の期間で行った。調査結果によると、ハイブリッドワークを行う人の割合が58%(2021年5月は46%)となり、在宅勤務のみまたはオフィス勤務のみであると回答した人の割合は顕著に減っている。
また、調査対象者全体の3分の2以上となる68%が望ましい仕事環境としてハイブリッドワークを挙げており、企業の経営層が全従業員に対して、いかに公平な体験と柔軟性を確保するのか、その方向性を早急に揃える必要があるという。
一方、日本では理想的な働き方はハイブリッドであると回答した人の割合は69%(2021年5月は52%)と増加し、リモートワークを好む理由の1位は通勤時間の削減だと回答した人は約4割に達する。
今回のアンケートは次々と発生する新型コロナウイルスの変異株により、世の中の先行きが不透明な状況があるにもかかわらず、データからはナレッジワーカーが従業員体験について2020年夏の初回アンケート以来、最もポジティブに考えていることが判明している。
企業の経営層は当初、分散した組織が協力してイノベーションを生み出すために、どうサポートできるのかに頭を悩ませ、それをハイブリッドワークのハードルだと捉えていたが、そうした不安は解消されつつあるという。今回の結果からは41%の経営者がリモートワークとオフィス勤務の従業員間での不公平をいかに防ぐかという、繊細で長期的な目標を見据えていることが判明している。
働く場所と時間の柔軟性が重要に
調査では、世界各地のナレッジワーカーの大半が働く場所や時間の柔軟性を求めていることが分かり、アンケート回答者の78%(2021年5月は76%)が働く場所の柔軟性を、95%(同93%)が時間の柔軟性を求めており、大転職時代を憂慮する経営層は、こうした柔軟性を求めてる声を頭にとどめるべきだという。日本でも働く時間が重要と回答した割合は前回の84%から92%に増加している。
柔軟性を求める声は有色人種、女性、ワーキングマザーといった、これまで知識労働において過少評価されてきたグループ間で特に強くなっており、米国ではヒスパニック・ラテン系のナレッジワーカーの86%、アジア人・アジア系アメリカ人と黒人のナレッジワーカーの81%がハイブリットやリモートの勤務環境を希望すると答えたのに対し、白人のナレッジワーカーではその比率が75%にとどまった。
グローバルにおいても女性の52%が少なくとも週3日は働く場所を柔軟に選びたいと考えているのに対し、男性では46%となり、完全またはほぼリモートワークを希望する割合はワーキングマザーが50%に対し、ワーキングファーザーは43%となっている。
今回の結果では、ハイブリッドワークの増加に伴い、ナレッジワーカーの従業員体験スコアの改善が見られ、アンケートの8つの項目すべてにおいて前四半期よりも高いスコアが付いた。全項目でリモートワークとハイブリッドワークを行う人のスコアが完全オフィス勤務者を上回り、項目はワークライフバランスや仕事関連のストレスだけでなく、職場への帰属意識や人間関係の価値も含まれ、これらはリモートやハイブリッドワークに関する懸念事項だったものとなる。
経営層が懸念する近接性バイアス
従業員体験のスコアが改善したとはいえ、経営層の近接性バイアス、つまり実際のオフィスで一緒に働く従業員を贔屓(ひいき)してしまうリスクが注目されている。
現在、柔軟な働き方に関して経営層が最も懸念しているのはリモートワークの従業員とオフィス勤務の従業員との間に不公平が生じる可能性(回答者の41%が同意、前四半期では33%)だという。
このような懸念はあるものの、経営層は依然として従業員よりも長い時間をオフィスで過ごし、今回の調査では現在週3日以上オフィスで仕事をしていると回答した経営層は71%に達し、一般従業員の63%を上回る結果となった。この差は現在リモートワーク中の経営層のうち、週3日以上はオフィスで働きたいと考えている人(75%)が一般従業員(37%)より多いことから、今後も広がることが予想されている。
近接性バイアスで最も深刻な影響を受けるのは、これまで過小評価されていた従業員のグループとなり、ほかのグループよりも柔軟な勤務環境を好み、オフィスを選ばない傾向があるからだという。実際、米国ではヒスパニック・ラテン系の回答者の84%、黒人の76%、アジア人・アジア系アメリカ人の74%が現在リモートまたはハイブリッドワークを行っていると回答したのに対し、白人は67%にとどまっている。
また、グローバルにおいてオフィスで仕事をしている割合(完全オフィス勤務あるいはハイブリッド)は男性で84%、女性で79%となり、男性よりも女性がリモートワークを選ぶ割合が高い一方で、子供のいる人が柔軟な勤務環境を選ぶ割合(リモートまたはハイブリッド)は75%、子どものいない人の割合は63%となっている。
公平な職場環境を醸成していくために
そのため、近接性バイアスをなくしてリモートワークの従業員とオフィス勤務の従業員を公平に扱うには経営層が自社における効果的なハイブリッドワークの概要をまとめて原則と行動指針として示すことが必要だという。
原則は、インクルーシブ(包摂性)であることや平等といった企業のコアバリューに対するアプローチを土台とし、行動指針はあらゆる従業員にとって公平な職場環境を保つための行動を定めたガイドとなる。例えば、経営層が1週間にオフィスで過ごす日数を制限するほか、会議に「リモート参加者がいる場合は全員リモート」というポリシーも設けてもよいと提言している。
水嶋氏は「不公平を防止する方法としては、ダイバーシティとインクルージョンへの積極的な投資だ。事実、これらへの投資が積極的な組織に属する従業員は、最も高い従業員体験指標を示している」と説く。
公平な職場環境を実現するために、同氏は「具体的な行動で示す」「透明性の高いコミュニケケーションで信頼を構築する」「マネージャーに新たなスキル教育」の3点に取り組むべきだと力説する。
具体的な行動として、ハイブリッドワークのための原則と行動指針を定めた上で行動のガイドラインをモデル化することに加え、信頼の構築に関しては迅速でオープンなコミュニケーションを行うとともにフィードバックを引き出すことが肝要だという。そして、マネージャーへのスキル教育については、監視役でなくメンバーに寄り添うコーチを育成し、インプットではなく成果を測定することを推奨している。
このような枠組みがあれば、経営層は多様性とインクルージョンへのさらなる投資に専念することができるという。加えて、従業員が対面で集まるときに帰属意識を高めて同僚と関係を築けるようにオフィスのデザイン見直しなどについても考える必要があるとしている。