アストロバイオロジーセンター(ABC)、東京大学、国立天文台(NAOJ)の3者は12月23日、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラなどを用いて星形成領域を撮影した画像から、「浮遊惑星」の均質なサンプルとしては過去最大級となる、およそ100個もの天体を発見したと発表した。
同成果は、仏・ボルドー大学のヌリア・ミレ・ロイグ氏、ABC/東大の田村元秀教授らを中心とした国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
近年の研究から、惑星は誕生して以降、その軌道を大きく変化させる可能性があると考えられるようになってきた。太陽系では木星が、そうした動きをしたと考えられているほか、系外惑星では、中心星に非常に近いところを公転する惑星の存在が知られており、遠方で誕生した後、現在の位置まで移動してきたものと考えられている。
中には、中心星の重力を振り切って星系外に放り出されてしまった惑星もあると考えられている。実際に、恒星を周回せずに宇宙空間を漂う惑星サイズ天体の存在が、2000年ごろから観測されるようになってきた。浮遊惑星(孤立惑星)と呼ばれるこれらは、最大でも木星質量の約13倍と考えられている。
惑星と恒星の中間の質量である褐色矮星(木星の約80~13倍=太陽の約10分の1~100分の1の質量 )と同様に、自ら核融合を起こして輝けるほどの質量はないため、暗く発見しにくい天体だ。そのため望遠鏡の性能が向上した現在でも、浮遊天体を直接に画像として捉え、そのスペクトルを調べた例は限られている。直接観測による発見自体も散発的なものだった。
そうした中、研究チームが今回着目したのが、さそり座からへびつかい座にかけての星形成領域(約171平方度)。この星形成領域は、太陽よりずっと重い大質量星から太陽より軽い小質量星までが、集団で生まれている領域である。そうした星形成領域の中では地球に近い1つで、さまざまな星やその集団の形成について詳しく調べることが可能だ。
そこで研究チームは、世界中の観測所における過去20年間の可視光線および赤外線の画像約8万枚を収集。それらに捉えられた合計して約2600万の天体の位置、明るさ、固有運動(天球面上での天体の動き)を含むカタログ「DANCe」が作成されたほか、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が1989年8月に打ち上げた衛星「ヒッパルコス」と、その後継機としてESAが2013年12月に打ち上げた衛星「ガイア」という2機の位置天文衛星のデータを用いて、星の精密な固有運動が求められた。
その結果、今回対象とされた星形成領域にあると推定される、およそ100個ほどの惑星質量と考えられる暗い天体をDANCeカタログから抽出することに成功したという。また惑星よりも重い天体まで含めると、この領域において3455個の天体が同定されたとした。
浮遊惑星を含む多数の生まれたばかりの天体が同定されたことで、この星形成領域で「どの重さの星が、それぞれ何個生まれるのか」、つまり「初期質量関数」と呼ばれる問題に迫ることができるという。太陽よりも軽い恒星の赤色矮星は少なくとも天の川銀河においては、75~80%ほどを占めるといわれるが、それ以下の褐色矮星や巨大ガス惑星も含めると、軽い星の頻度は今なお明らかになっていない。
今回の研究では、太陽質量の10倍程度の重い星から、100分の1以下の浮遊惑星までの質量関数が正確に求められることとなった。この質量関数を、星形成の標準理論、つまり、分子雲が自己重力で収縮して恒星や褐色矮星が生まれるというモデルと比較すると、観測された浮遊惑星の数は、理論モデルを惑星質量まで外挿して予想される惑星数をはるかに超えることが示されたという。
この結果は、恒星が集団で生まれて星団を形成した際に、個々の若い恒星の原始惑星系円盤の中で生まれた惑星が、惑星同士の重力散乱などにより放出され、浮遊惑星の大部分が形成されたというシナリオを支持しているという。これは、この領域の大多数の浮遊惑星は「星のように生まれた」のではなく、「惑星のように生まれた」ことを意味するという。
なお、研究チームは今後の展望として、「ハッブル宇宙望遠鏡の赤外線版後継機ともいえる口径6.5mのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)にとって、浮遊惑星のような低温で微弱な明るさの天体は、高感度赤外線で観測すべき最適な観測対象となるでしょう。系外惑星と異なり、直接観測の邪魔になる明るい恒星が近くにないからです。今回発見された浮遊惑星は、その大気の研究や通常の系外惑星との比較研究を行う上で重要なサンプルとなるでしょう」とコメントしている。